白鵬は誰が何と言おうと、大横綱だった(4)
NHK総合テレビの録画で「NHKスペシャル 横綱白鵬“孤独”の14年」を観ました。
きのうのつづき
白鵬は日本人に愛されたいという思いが人一倍強い男だった。
2011年の東日本大震災のときも、被災地を訪問し、住民と交流し、義援金を毎年贈っている。
2019年には日本国籍を取得した。日本という国を愛し、これからまた相撲道の発展のために一生懸命頑張りたいという気持ちからだ。
外国出身力士としての孤独を計り知れないほど味わってきた。日馬冨士や鶴竜らモンゴル勢が台頭する中、日本人力士の稀勢の里が希望の星として現れた。
2013年九州場所の直接対決。思いもよらぬことが起こった。稀勢の里が白鵬を破ると、場内は「万歳!」の歓声に包まれた。
稀勢の里が振り返る。
ものすごいプレッシャーの中、精神的にも肉体的にもいろいろなことが削られていたと思います。いろいろなことがのしかかったと思います。それはすごいなと思いますし、自分ではわからないことがたくさんある。
白鵬を間近で見続けていたのが、専属トレーナーの大庭大業さんだ。大庭さんは白鵬の日々のつぶやきをノートに記録してきた。そこには「日本の皆から好かれたい」というメモもある。
大庭さんが語る。
異国の地に来て、好かれたい。葛藤しながら、苦しみながら、やらないといけないという使命もありながら、進んでいたような感じがありますよね。
2014年。優勝回数は大鵬の32回に並んだ。複雑な思いが白鵬にはあった。大庭さんのノートには「本当に超えていいのか。怖いよね」。
2015年初場所13日目。稀勢の里戦。これに勝つと優勝が決まる一番だった。際どい土俵際。白鵬に軍配が上がったが、物言いがついた。場内は「もう1回」コールの嵐。結局、同体で取り直しになって、白鵬が勝った。優勝が決まり、44年ぶりに記録は塗り替えられたが、白鵬に笑顔はなかった。
千秋楽翌日のインタビューで13日目について白鵬はこう言った。
盛り上がるどうこうじゃない。こっちは命かけてやってますから。こんなの二度とないようにやってもらいたい。ずっとそう思ってました。
これを「審判批判」だとマスコミは取り上げ、激しいバッシングに遭った。
その後、白鵬は取材を一切拒否。世間との溝が深まっていった。
一方、マスコミや国民の稀勢の里への期待は高まっていく。2016年夏場所。貴乃花引退以来の日本人横綱を望む声だ。稀勢の里は12連勝した。13日目は白鵬との全勝対決である。そのときの大庭さんのノートには「きょうは日本人みんな稀勢の里を応援するんだろうな。休場したら、日本中が喜ぶかな」とある。
大庭トレーナーが語る。
自分が勝ったら、国技館に来た人、大相撲のファンに裏切るというか、嫌われるんじゃないか、そこまで思ったかもしれませんね。孤独感というのがあったんですね。
結果は下手投げで白鵬の勝利。場内は落胆の空気に包まれた。
どこか寂しげな顔、すごく印象に残っていますね。相撲のために、歯を食いしばって頑張っているのに。切ない気持ちでいっぱいでしたね。
つづく