【弁財亭和泉・春風亭柳枝ひざふに二人会】~実りの秋の巻~

江戸東京博物館小ホールで「弁財亭和泉・春風亭柳枝ひざふに二人会」を開きました。(2021・10・24)

今月7日、柳家小三治師匠が亡くなった。師匠が落語界に遺した功績は筆舌に尽くし難く、後進の噺家さんたちにとっても、大きな穴がポッカリと空いたようなお気持ちではなかろうか。

僕が最後に聴いた高座は8月9日のよみうりホールでの「錦の袈裟」。飄々した中に、人間の可笑しみが描かれた滋味深い一席だった。

このときの会で、和泉師匠の真打昇進披露口上もおこなわれ、歌る多師匠や夫の小八師匠も出演していた。和泉師匠は新作落語「箱の中」を演じ、小三治師匠が称賛していたのが印象的だった。

後日聞いたところによると、小三治師匠が「是非台本を見せてほしい」とおっしゃって、お送りしたところ、「何より、自分の言葉で喋っているのが良い」とお褒めの言葉を頂いたそうだ。

落語協会会長時代に、一之輔師匠らの抜擢真打昇進を敢行し、後進の指導にも力を入れていた小三治師匠。和泉師匠や柳枝師匠の成長も、もう少し見届けたかったのではないだろうか。

春風亭貫いち「のめる」

何よりものびのびと演じているのが気持ち良かった。この噺を前座さんが演るのは珍しいが、どんどん吸収して、寄席以外のところでチャンスがあるときに挑戦するのはとてもいいことだと思う。

春風亭柳枝「棒鱈」

田舎侍の唄のデフォルメが実に楽しい。十二月の唄のあとの、利休おじゃるなら~に爆笑。狸の腹鼓!マイクの音声レベルを気持ち下げたよ(笑)。

弁財亭和泉「死んだふり」

フランスに行って大判焼き屋を開き、ヒトヤマ当てるという夢(?)を持った男と結婚したいという娘に猛反対する父親。そのために、渡仏前にある芝居を企むのだが…。終盤になって、父親と娘の親子愛が滲み出て、人情噺にも聴こえる素敵な作品だ。

中入り

弁財亭和泉「箱の中」

人生の後片付け、つまり「終活」は親の責任と、フリマアプリを使いだした両親だけど、それが息子や娘も巻き込んで波乱を巻き起こすという…。和泉師匠は現代の家族社会や人間関係を鋭く観察し、笑いに転化するのが実に上手い。女流新作の旗手としての今後の活躍に期待大だ。

春風亭柳枝「景清」

聴き手が真っ直ぐな気持ちになる噺が上手だ。この噺の主人公は勿論、彫り物師の定次郎なのだが、僕は石田の旦那の温かい気持ちにジーンとなった。信心がうまくいかなくても、諦めずに通い続けなさい。何なら、我が家からお参りにいけばいい、お賽銭も出してあげる。その優しさに何とも言えない感動を覚えた。