【「お富与三郎」車読み】波瀾万丈な人間ドラマを5人の講談師で一気に読み切る醍醐味(上)

お江戸日本橋亭で「講談土曜特選会 お富与三郎車読み」を観ました。(2021・10・23)

一龍齋貞寿先生のプロデュースである。去年から今年にかけて、らくごカフェで貞寿先生が「お富与三郎」を連続読みしていて、僕も何回か行ったけれども、これが実に面白い。丁寧に読んでいったら、何話に分かれるのかわからないが、今回の企画は発端の「なれそめ」から最後の「与三郎殺し」までを5人の講談師で車読みするというのであるから、堪らない。うまく大胆に編集して、5話に分けていたけれど、僕は「玄冶店」までは貞寿先生で聴いたことがあったので、特にそれ以降の2つの高座「島抜け」と「与三郎殺し」を大変興味深く聴いた。

「なれそめ」田辺凌天

「なぶり斬り」一龍齋貞橘

「玄冶店」田辺銀冶

「島抜け」一龍齋貞寿

玄冶店で再会したお富と与三郎。物分かりの良い旦那、井筒屋太左衛門の配慮もあり、30両をもらって、めでたく一緒に暮らせるようになった。だが、二人とも真面目に働くということをしない。あっという間に金は底をついてしまった。

与三郎の実家、日本橋横山町三丁目伊豆屋では、父親の喜兵衛がお富と与三郎の現在を知り、大騒ぎをしたが、与三郎の了見が直らないとみて、勘当してしまった。

さあ、金に困れば悪事に手を出す。いつの間にやら、一端の悪党になっていた。依田豊前守が無宿人狩りをしたため、与三郎たちも品川から中山道へ逃げたが、ある宿で御用となってしまった。お富は無期懲役で、生涯牢獄暮らし。与三郎は佐渡に島流しとなった。

佐渡での日々は辛いものだった。金山の水汲み人足。汗と泥にまみれながら、働き詰めである。「お富に会いたい」という思いは募る。島破りをしたい。だが、そう簡単なものではない。同じように考える仲間ができた。富八と後家鉄、そして与三郎。

大嵐の晩を狙う。9月27日。鰹を釣る舟で島破り決行。波と風に耐えながら、何とか浜辺に着いたのは、富八と与三郎の2人だった。地蔵ヶ浜。地元の大親分の又五郎に一部始終を話すと、よく面倒をみてくれた。

与三郎はただただ、両親にあって恩を返したい、お詫びをしたい。そして、お富に一目でいいから会いたい。「痴情に迷って悪の道に入ったのに、それでも女に会いたいのか」「はい。会えたら、自ら番所に訴え出る。逃げ切れるものではない」。

富八と与三郎は江戸へ向かった。だが、高崎宿で「御用だ!」。富八は捕まって、江戸送りとなり、磔の刑に。与三郎は逃げ切って、江戸へ向かった。