【十月大歌舞伎 第2部】「時平の七笑」
歌舞伎座で「十月大歌舞伎」第二部を観ました。(2021・10・22)
「時平の七笑」の主人公は勿論、藤原時平だが、まず菅原道真の可哀想な処遇に思いを馳せる。
道真が「謀反人」だということ。証拠としては、道真の息女紅梅姫が帝の弟斎世親王と交わした恋歌を認めた短冊。これは帝を廃して斎世親王を即位させ、紅梅姫を皇后に冊立させようと企んでいるというものだ。庶民にまで書道の手ほどきをしているのは、彼らを一味徒党に加わらせようという下心だとも。
さらなる証拠は、唐土からの使者の証言と密書だという。使者である天蘭敬が「日本を唐に従えさせる」という密約を交わしたと証言している。また、証拠となる密書まであるという。
だが、それは全て左大臣・藤原時平が裏から手を回していることであった。しかし、時平はそれをお首にも出さない。寧ろ、右大臣・菅原道真を救ってやるような口ぶりである。「公家悪」というキャラクターで、白塗りの善人で登場した時平は道真擁護の立場に立っているかのようである。
しかし、予め手配しておいた証拠のようなものを見て、「これは道真追放も仕方ない」とするのだ。心の底ではシメシメと思いながら、表向きは優しそうなそぶりを見せる時平。人間の汚さ、巨悪の本性を顕す時平に悪人ぶりが見ものだ。
素直な道真は時平の恩情に打たれ、太宰府に向かう覚悟を決める。一方、時平は傍らの梅の枝を折り、これを道真に渡す。そして、天皇の赦しを得られるように手を尽くすと語り、道真との別れを悲しむ顔をするのだ。
なんという悪人なんだろう。時平の七笑のうちの嘲笑、冷笑、大笑などは全て道真追放の策略が上手くいったことを喜ぶもの。なんという悪い奴なんだ!という思いを観客に残して、笑い声が響く中、幕は下りる。
左大臣 藤原時平:松本白鷗 頭の定岡:大谷友右衛門 藤原宿弥:大谷廣太郎 三好清貫:澤村宗之助 春藤玄蕃:松本錦吾 左中弁希世:大谷桂三 判官代輝国:市川高麗蔵 右大臣 菅原道真:中村歌六