【十月大歌舞伎 第1部】「天竺徳兵衛新噺 小平次外伝」

歌舞伎座で「十月大歌舞伎」第一部を観ました。(2021・10・15)

「天竺徳兵衛新噺 小平次外伝」は講談の「小幡小平次」の元にもなっている歌舞伎で、小平次の幽霊の恐ろしさに震える。

何といっても許せないのが、女房のおとわと間男の多九郎である。小平次が巡礼に行っている間に不義密通を働いて、夫婦同様の仲になる。挙句の果てには邪魔者扱いして、殺してしまうのだから。医者の小久保天南に依頼して、毒薬を入手し、毒殺してしまおうという魂胆だが、さすがに小平次も怪訝に思い躊躇するのは当然のことだ。

だが、無理やり飲まそうとして揉み合いになり、ついには沼に小平次を沈めてしまう。そこに、おとわが現れ、沼の縁の杭にしがみつく小平次の指を一本ずつ切り離して息の根を絶つところの残虐さと言ったら・・・。

こんな悪事を働く、おとわと多九郎だから、恐ろしい小平次の幽霊が現れるのは必然。小平次の幽霊に気が付いた多九郎が慌てふためき、奥へと逃げる。一間に吊った蚊帳の中で横になっているおとわを悩ます。

逃げる多九郎に対し、小平次の妹のおまきは憑依により男の力を得て行く手を阻む。さらに逃げるおとわも小平次の幽霊によって引き戻されてしまう。

恨み重なるおとわを絶命させて、小平次の幽霊はおとわの首を携えて浮かび上がる様子は、怖ろしさと同時によくぞ討ち果たしたという思いに浸る。

小平次の幽霊だけでなく、この物語の隠れた立役者は今井家の重臣、尾形十郎だ。小平次の父親の正作に頼まれ、小平次の仇を討った。紛失していた今井家の重宝「浪頭の名鏡」がなぜか、多九郎が手にしていたが、沼に落としたのを拾い、小平次の幽霊に渡す。すると、小平次の霊力によって、おとわと多九郎を討ち果たすことができた。

小平次の恨みを晴らした十郎はじめ、正作やおまきたちは、小平次の成仏を願い、菩提を弔うのであった。不義密通を発端とした単純な怪談噺というだけでなく、主従や親子の情愛が浮かび上がった芝居という感想を持った。

小平次/女房おとわ(二役):市川猿之助 馬士多九郎:坂東巳之助 尾形十郎:尾上松也 奴磯平:市川男寅 妹おまき:中村米吉 父親正作:嵐橘三郎