【プロフェッショナル 鮨職人・小野二郎】修業は、一生終わらない(1)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 鮨職人・小野二郎」を観ました。(2008年1月8日放送)

2007年にミシュランガイド日本版が初めて刊行されたとき、僕は「すきやばし次郎」という鮨の名店の名前を知った。とても僕の手の届くようなお店ではないが、その名前はずっと忘れなかった。調べてみたところ、2019年のミシュランまでは三ツ星を獲得していたが、2020年には「一般客が予約できなくなった」ことを理由に掲載が止まったそうだ。この番組が放送されたのが08年1月だから、初めて三ツ星を獲得した直後である。

そのとき、小野二郎さんは82歳。計算すると、95歳になっているはずだが、今もカウンターで鮨を握っているのだろうか。それとも、店長だった長男に後を譲ったのだろうか。そのことについてはわからない。ただ、僕はこの番組を見て、その職人魂とか、プロ根性に感銘を受けたので、このブログに記録したいと思った。だから、これから書かれていることは、13年前の「すきやばし次郎」であり、小野二郎さんであるということを断っておく。(以下、敬称略)

二郎は毎朝、歩いて仕事場に向かう。自宅のある中野から新宿駅まで、およそ40分を歩く。二郎は真夏でも手袋を欠かさない。鮨職人の命である手を火焼けや傷から守るためだ。

店は銀座の数寄屋橋交差点にほど近い雑居ビルの地下にある。まず長男・禎一から仕入れの報告を受ける。使うのは最高級の天然モノ。ネタは天候に左右される。調理場では弟子たちの手で魚の仕込みがはじまっている。

鮨ネタは獲れたての新鮮なものが美味しいとは限らない。味を決めるのは「手当て」と呼ばれる職人技だ。魚の種類や状態に応じて、一旦寝かせたり、塩や酢の塩梅を変え、〆ることで旨味を引き出す。白身の魚は卸して一日ほど寝かせなければ本来の味や香りが出ない。その食べごろは二郎が見極める。

脂の乗ったカツオは藁で燻して香りをつける手当てをほどこす。しかし、手当てをしたネタすべてが客に出されるわけではない。

三日間寝かせた2本の〆めたサバ。一本目は合格。同じ手当てをしたもう一本のサバは・・・二郎は首を横に振った。一本4千円の最高級のサバ。生の状態では同じように見えても、酢で〆ると僅かに味の違いが現れるという。その違いを二郎は許さない。

二郎が語る。

今食べてもそんなに差はないから、生のときはもっとわからない。私らでも、だから両方同じようにやってみて、今の握る状態のときに食べてみて、こっちを使おう、こっちは止めよう、そういう無駄というのが結構ありますよ、年間通じたら。でも、それをやらなければ、お客さんが美味しいと言ってくれないでしょうし。

つづく