【プロフェッショナル 鮨職人・小野二郎】修業は、一生終わらない(2)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 鮨職人・小野二郎」を観ました。(2008年1月8日放送)

きのうのつづき

午前11時半。開店の時間だ。熱いおしぼりで顔を引き締める。二郎の真剣勝負がはじまる。

二郎の握りは「おまかせ」という20カンのコース仕立てになっている。最初は白身。この日はマコガレイだ。握りはわずか4手。素早いテンポで握る。人呼んで「二郎握り」。その握りはシャリが口の中でハラハラとほどける、ふんわりとした鮨を生む。秘密は力加減。シャリ外側の米三列だけを固めるという。二つに割ると、外側の米粒だけが密着し、中心には隙間ができているのがわかる。

さらにネタの温度や握りの順番にも細かな配慮がされている。白身の次はマグロだ。赤身。脂の乗った中トロ。そして、大トロと続く。続いて、コハダ。マグロの脂を酢の酸味で拭い去る。常温のハマグリの次は、冷えたアジ。温度差のあるネタを交互に出していく。

調理場では次のネタの準備が同時に進められている。生きたまま保存されたクルマエビは、客の口に入るときにちょうど人肌の温かさになるように、カウンターの進行状態を確認しながら、逆算して茹でられる。ネタの温度差によって味覚や嗅覚が敏感になり、ひとつひとつのネタが際立つと二郎は考える。

中盤のヤマ場は、藁で燻して香りをつけたカツオだ。握っている間、二郎はほとんど喋らない。ひとつのことを心掛けている。「目で握る」。

二郎はカウンターに並んだ客の食べる早さや表情をさりげなく観察する。相手が一貫食べ終わる頃合いを見極め、次のネタの切りつけを指示。食べ終わるとほぼ同時に、次のネタを出す。そのリズムを頑なに守る。

二郎が語る。

握ったらすぐ食べるのが美味しいんだから、シャリの温度を調節して、エビなんかだったら、この温度っていって握っている。こっちが真剣に握って、「はい、どうぞ」というときに食べてくれるのが一番ありがたいと思います。

ウニ、イクラ、小柱と軍艦が続き、20カンはフィナーレへ。クライマックスは甘いツメを塗ったアナゴ。シバエビをたっぷり使った玉子焼きで幕が下りる。

この「おまかせ」は二郎が四半世紀にわたる試行錯誤の末に辿りついたもの。その試行錯誤は今なお続いている。

二つに切って出されるクルマエビ。一年前まではエビの向きが逆だった。出し方を変えたのは、手に取ったとき、ミソの詰まった頭の部分から口に入るようにするためだ。どうすれば、さらに美味しくなるか。二郎はそればかりを考えている。

二郎が語る。

まだ何かあるんじゃないかってことが、一つの進歩じゃないかと思うし。自分が好きだからそれが考えられるじゃないかと思うんですよ。自分の仕事に惚れこんで、とことん突っ込んでいかないといけないし、いい仕事はできないと思いますよ。

鮨職人になって56年。常に上だけを目指して、二郎は鮨を握ってきた。

つづく