林家きく麿「ちぐはぐ」まろやかでファニーな作品の中にきちんとした論理の展開と構成がある

道楽亭ネット寄席で「林家きく麿 二丁目の夜はふけて」を観ました。(2021・10・05)

道楽亭が今月いっぱいで現在の新宿二丁目の店を閉じる。クラウドファンディングを募っていて、それを資金にどこか違う物件を探している最中であるという。若手を中心に噺家さんに大いに貢献している道楽亭さんだから、引き続き良い物件を見つけて、活動を再開するのを楽しみにしている。また、コロナ禍ではじまった配信も積極的に継続しているので、そちらの方も頑張って頂きたいと思う。

というわけで、きく麿師匠の独演会のタイトルも「二丁目の夜はふけて」とはいかなくなるだろうから、とりあえずはこれが最終回である。第33回だそうだ。ご本人は「8年くらいやっているのかな?」とおっしゃっていたが、その第1回でネタおろしをしたという「寝かしつけ」を一席目で演じた。

相変わらず面白い。♬ねんねんころりよ、おころりよ~、「おころりよ」の歌と名付けちゃうのも可笑しいし、背筋を伸ばして、手をがっちりと組んで歌う「眠れ~」は、命令形だから駄目というのも面白い。

そして何とも言えないのが、「桃太郎の歌」の替え歌だ。イヌにキビ団子をあげるときの桃太郎とイヌのやりとりが、「あげません、あげません」とけんか腰になっていくところや、「買いましょう、買いましょう」と上から目線になっていくところなど最高である。

不朽の名作「おもち」を挟んで、ネタおろしの「ちぐはぐ」も面白かった。主人公が乗りたいバスに急いで走っていったのに、バスが定刻より1分早く出発して間に合わなかったとか。次のバスまで30分あるから、スーパーで500円の唐揚げ弁当を選んで購入したら、店内に「今から半額セールになります」とアナウンスが流れてがっくりしたとか。

その不運も面白いのだけれど、それを客観視する「五平餅のおばさん」(最後には「あの五平餅が」になっているが)の存在。同じくバスに乗り遅れてしまったおばさんなんだけど、「あんた、五平餅食べる?」と差し出されたから、そのおばさんは「五平餅のおばさん」もしくは「五平餅」になる。そういうところがめちゃくちゃ可笑しい。

それでもって、そのエピソードを聞いた友人が、「ちぐはぐな日だったね」というと、主人公は自分の苦労や大変だったことを「ちぐはぐ」という言葉で片づけられたことに、すごい憤慨するのがきく麿落語の真骨頂だ。「ちぐはぐ」でまとめられる屈辱とでも言おうか。

ものすごい論理的に、どの行動が「ちくはぐ」で、どの行動は「ちくはぐ」でなかったかを検証して、全体的には「ちくはぐ」ではない!と怒るのである。

のほほんとまん丸なイメージのあるきく麿落語だけれど、実はものすごく尖がっている作品もいっぱいあるのだということを言いたかった。