立川笑二「水屋の富」真面目だからこそ、人を信じられなくなってしまう。人間らしい、というのはこういうことなのか。

上野広小路亭で「立川笑二独演会」を観ました。(2021・09・29)

ネタおろしの「水屋の富」が秀逸であった。

水屋という商売は、水道が発達していなかった時代には、江戸の人々の生活必需を商う職業だったこと。食いっぱぐれがないかわりに、毎日お得意様を回らないといけないので、休みがなくて辛い仕事だったことを軽く前振りしたのが良かった。

多少身体の具合が悪くても、商売に出なくてはいけない。ゆっくりと眠れる日などがない。だからこそ、富くじを当てて、身体を休めて、別の商売に変わりたいと考えていたわけだ。

で、実際に主人公の清兵衛さんは千両富を当てた。立て替え金などの手数料を引かれて、800両になっても、すぐに貰いたいと思った。だが、これで水屋を辞められるわけではない。代わりの人間を探さないと、お得意様が干上がってしまう。それまでは水屋を続けなければいけない。

800両の風呂敷包みをどこに隠すか。押し入れの桑折、神棚、水甕、色々考えたが心配症の清兵衛さんは、泥棒に見つかる可能性がゼロではないと考える。そして思いついたのが、縁の下だ。縁の下の風呂敷包みを竹竿で確認してから商売に出る。

疑心暗鬼の塊のような清兵衛さんは長屋の連中と顔を合わせても、「こいつ、知っているんじゃないか」と疑い、見慣れない人が通ると、泥棒じゃないかと心配になる。何度も竹竿で確認して家を出るから、お得意様に水を運ぶのが遅れて、怒られる。

帰宅して床に就いても、よく眠れない。泥棒が上がり込んできて、出刃包丁を突きつけられ、金を出せ!と脅される夢を見る。隣家の六さんが訪れて、「大家が小豆相場に手を出して破産した。店立てだ。代わりにこの長屋を買い取ってくれ」と頼みに来る。「800両、あるだろう!」。どういうわけか、知っている。ああ、夢か。

湯島天神で千両富が当たった。半年待てば、満額の千両を貰える。今だと、800両だけど、どうしますか?と訊かれ、引越しや商売替えのことを考えると半年待った方が得だと思い、そう答えると…これがまた夢。三日もお得意様のところに行かなくて、「もう、お前の水はいらない」と言われ、「三日も水がないから、赤ん坊が干上がって死んじまったんだよ!」と怒鳴られる。勘弁してくださいと謝ると…これも夢。

昼は昼でどんな人も信じられない疑心暗鬼。夜は夜で悪夢の連続。ああ、こんなことなら、千両なんて当たらなければ良かったとは言わないまでも、そんな気持ちにさえなる。

この不審な清兵衛さんの行動を見ていた向かいに住む遊び人の熊に、縁の下からまんまと800両を盗まれて、「ああ、きょうはよく寝られらあ」。

真面目な性分ゆえに、なまじ千両富なんか当てるとロクなことがない。その心情を具体的にリアリティーたっぷりに描いた「水屋の富」に拍手喝采であった。