【九月大歌舞伎】「東海道四谷怪談」民谷伊右衛門の色悪と、お岩の怨念がからみあう

歌舞伎座で「九月大歌舞伎」第三部を観ました。(2021・09・22)

「東海道四谷怪談」。民谷伊右衛門の色悪と、お岩の怨念が絡み合う芝居を片岡仁左衛門と坂東玉三郎が演じる見ごたえのある芝居だった。

伊右衛門は冷酷な男である。お岩が男の子を生んで、喜んで良さそうなものなのに、その逆だ。産後の肥立ちが悪く、病床に伏しているお岩を疎ましく思っている。世話は按摩の宅悦に任せ、金を作るために、お岩の掛け布団や蚊帳を売り払ってしまうという冷たさである。

邪険にされているお岩は当然、悲しく思うが、父・左門の仇討をしてくれると信じて、夫婦をやっているが、本当にその気があるのかどうかわからない。心を痛めている。

隣家の伊藤家が曲者である。主人の喜兵衛から、出産祝いにと贈られた「血の道の妙薬」。これは実は面体が変わる毒薬だった。孫娘のお梅が伊右衛門に恋い焦がれていて、何とか夫婦にさせたいと考えているのだ。出産祝いに行った伊右衛門が、実は…と喜兵衛に打ち明けられたら、普通は怒り心頭のはずだが、伊右衛門は違った。その縁談を受けるのである。なんという酷い男なのか。

お岩はその「血の道の妙薬」を飲んだ。すると、みるみるうちに発熱し、顔が痛み、変わり果てた容貌になる。按摩の宅悦はそれを見て、恐れおののいている。そこへ、伊右衛門が帰宅。伊右衛門は心配するどころか、冷酷にあしらった上に、左門の仇討をする心も失せたと告げる。さらに、宅悦にお岩に間男を仕掛けるように命じる。いやはや、なんとも。

宅悦は仕方なく不義を仕掛けるが、お岩は当然抵抗する。すると、宅悦は鏡を持ってきて、醜く崩れた面体をお岩に見せる。そして、伊右衛門から不義を仕掛けるように命じられたことや、伊藤家からの薬が毒薬であったことなどを明かす。お岩の心中、いかばかりか。

お岩は恨み言を言うために、出掛けると言って、母の形見の鼈甲の櫛で髪を梳くが、お岩の髪がごっそりと抜け落ちる。恐い。それでも伊藤家に赴こうとするお岩を宅悦は止めようとすると、お岩は刀で喉を突いて自害してしまった。

その後、内祝言にやってきた伊藤家だが、お梅にお岩が乗り移り、伊右衛門は首を斬ってしまう。だが、それはお梅だった。また、喜兵衛に小仏小平が乗り移り、これまた斬ってしまう。だが、その首は喜兵衛だった。全てはお岩の怨念がなせる業である。祟りである。怖ろしい。

伊右衛門の色悪とお岩の怨霊。仁左衛門と玉三郎が怪談の世界を見事に描いた。

民谷女房お岩:坂東玉三郎 小仏小平:中村橋之助 孫娘お梅:片岡千之助 按摩宅悦:片岡松之助 乳母おまき:中村歌女之丞 伊藤喜兵衛:片岡亀蔵 後家:お弓:中村萬次郎 民谷伊右衛門:片岡仁左衛門