【プロフェッショナル 動物写真家・岩合光昭】猫を知れば、世界が変わる(4)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 動物写真家・岩合光昭」を観ました。(2017年5月29日放送)
きのうのつづき
32歳のとき、岩合は決めた。アフリカに住む。1年以上腰を据えるつもりで野生動物の宝庫、タンザニアのセレンゲティ国立公園に。日本を離れる前から、撮りたいモノは決まっていた。ライオンやチータが草食動物を食らう弱肉強食の世界。その瞬間を探し、サバンナを車で駆け巡る日々が続いた。だが、何か月も全く撮れない。焦りからくるプレッシャーか、体が悲鳴をあげた。
岩合が語る。
ライオンの狩りを一つ撮るのも大変なんですよ。チータの狩りを撮るのも大変なんですけど。撮れないから、車の外に出て吐いたり。東京で考えていたことを実践しようとしていたんです。草食動物が草を食べて、草食動物を肉食動物が食べて、すべてのモノが最後は土に返るということを。頭で考えていて、頭が重くなっていくというか。考えて、考えて、考えていると、何で撮れないんだろうなと。どうして撮れないんだろうなと。
そんなある日のことだった。平原の真ん中で車が突然、故障した。そこは自宅まで40分近く、歩いて帰るしかなかった。茫然と歩く中、ある動物の影に気づいた。
キリンが一頭、アカシアの枝の葉を食べていたんです。長い舌を出して、枝を巻き取って、しごいて取るんですけど。アカシアの枝ってトゲだらけなんですけど、そのトゲをなんともせず、こう巻いてグワーって取るんですよ。よだれを垂らしながらおいしそうに食べるんですよね。
なんと美しいのか。弱肉強食の瞬間を探していたときには気づかなかった光景だった。
それを見た瞬間、自分はいったい何を考えていたんだろうなって、そのときかなり思いました。雷に打たれるってそんな感じでしたね。これを撮りに来たんだとって思ったんですよ。肩がスコーンと抜けるっていうの、そういうふうに思いましたね。日々起きていることを、兎に角写真に撮ればいいんだと思った。そのときから。その日から。
日々の営みにこそ、真実がある。
岩合の撮影は変わった。頭で考えたイメージを捨て、ひたすら日々の営みから目を離さなくなった。捉えたのは肉食動物も草食動物もみんな過酷な自然に生きる命の姿だった。
発表した写真は大きな評判となった。特に命懸けで戦いをおこなうライオンの写真はかつてない瞬間を切り取ったと評された。
40代に入ると、岩合のフィールドはさらに広がった。ザトウクジラの知られざる生態を追ったビデオ撮影、1年以上かけて捉えたホッキョクグマの暮らし。数々の快挙を成し遂げた。かつて頭の中で決めつけ、捉えられなかった動物たちの本当の姿。岩合は思う。
相手を認めてあげることが一番大切じゃないかなと思いますね。人の範疇で彼らを理解しようとするから平行線を辿ってしまうんじゃないかな、動物の間を。まず最初に、人と人もそうですけど、違いを認めてあげることが一番大切じゃないかなと思うんですよね。
つづく