【人形浄瑠璃文楽 九月公演】「卅三間堂棟由来」人間と植物の精が契りを結ぶメルヘンはやがて悲劇に

国立劇場小劇場で「人形浄瑠璃文楽 九月公演」第二部を観ました。(2021・09・13)

椰(なぎ)と柳が後世に夫婦となった悲劇、「卅三間堂棟由来」は切なくて、胸が苦しくなる。

熊野特有の椰の木、それと柳の木が互いに枝を伸ばして絡み合う“連理”の状態になっていた。それは、人間でいうところの男女の交わりにも似て、これを穢れだとして二本の枝を切り離してしまった蓮華王坊の行為が、因果となるとは。

椰の木は現世で人間の横曽根平太郎に生まれ変わったが、柳の木は人間にはなりきれず、柳の精になって、お柳という人間に姿を変えた。そこが悲劇のはじまりである。

また、蓮華王坊は二つの木の恨みで非業の最期を遂げ、その生まれ変わりが白河法皇だというのも皮肉である。白河法皇が熊野詣でからの帰り道に謀反を企てる一味に襲われたのを救ってあげたのが平太郎とお柳の夫婦で、それゆえ、後日に平太郎住家に平家家臣の進ノ蔵人が褒美を持って訪ねてくるのだ。

その蔵人の口から「悲劇」を知ることになる。柳の木を伐採し、三十三間堂を建立し、法皇の前世の髑髏を納めれば、法皇の頭痛が平癒するというので、今まさに柳の木の伐採に取り掛かろうとしているのだという。

なんということでしょう!お柳の驚きはいかばかりか。柳の木が伐り倒されれば、私は家族と別れなければいけない。深い悲しみに暮れるばかりである。

柳の木を伐る音が聞こえてきた。お柳は眠っている平太郎に本性を明かし、涙ながらに別れを告げる。目を覚ました平太郎はお柳を抱きしめるが、瞬く間に消え去ってしまった。どこを探しても、いない。お柳は柳の精だったのか。あんなにも愛情深く暮らしていたのに、なんということだろう。

再び家族の前に姿を現したお柳は手に髑髏を持っている。それは、白河法皇の前世の髑髏で、これを法皇に渡せば手柄となり、家の再興ができるのではないか、というお柳として最後にできる平太郎への愛情表現だ。そして、またお柳は姿を消してしまった。

平太郎と息子のみどり丸は柳の木の元へ夜道を急ぐ。その間、盗賊の和田四郎が忍び込み、その髑髏を渡せと老母を脅す。自分の出世のために、利用しようとしたのだ。平太郎たちが住家に戻ると、老母は殺害されていた。平太郎から髑髏の子細を問い詰めるが、平太郎は答えないで、逆に和田を討ち殺した。この場面は、しばしばカットされることが多いが、「悲劇」に一層の悲しみを加えるという意味で、良い演出だと思う。

そして、夜明けの街道筋。賑やかな木遣音頭とともに大勢の人足が柳を曳いてきた。だが、突然動かなくなる。駆けつけた平太郎とみどり丸は「お柳が別れを惜しんでいる」と察し、許しを得て、みどり丸に綱を曳かせる。

すると、柳の木は再び動き出した。奇跡だ。みどり丸は泣きながら、母の柳にすがりつく。平太郎と息子に見送られ、柳は都へと曳かれていくのだった。

人間と植物が契りを結ぶメルヘンチックな要素もありながら、悲劇的な結末を迎える物語に胸が熱くなった。

平太郎住家より木遣音頭の段

中 豊竹睦太夫/鶴澤清志郎 切 豊竹咲太夫/鶴澤燕三 奥 豊竹呂勢太夫/鶴澤清治

女房お柳:吉田和生/進ノ蔵人:桐竹紋臣/平太郎の母:吉田蓑一郎/横曾根平太郎:吉田蓑二郎/和田四郎:吉田玉助/みどり丸:桐竹勘次郎