港家小柳丸「侍子守唄」血が繋がっていない“父と娘”だからこそ、深い絆で結ばれていることに心打たれる

木馬亭で「日本浪曲協会 9月定席」三日目を観ました。(2021・09・03)

港家小柳丸先生の高座を初めて拝聴した。「侍子守唄」。とても良かった。紀州の浪人、小牧新八郎は困窮し、強盗殺人はしたけれど、本当は心の優しい温かい男だった。なのに、なぜ…。だが、殺された夫婦の娘は新八郎の本当の心の持ち様を分かっていて、16年後に許す。許されちゃいけないと思う新八郎と許してあげたいという娘の気持ちの譲り合いが何とも美しい。いやあ、浪曲っていいもんだなあと思った。

正義感の強い新八郎が強盗を働いたのは、下僕だった藤太にけしかけられたからだ。このまま浪人暮らしをしていても埒があかない、一発当てましょうぜ、とでも言われたに違いないと僕は推測する。本郷の伊勢屋五郎兵衛の店に入り、主人と女房を殺し、200両を強奪した。「仕事」が終わって、さあ逃げようと藤太が言うと、新八郎の懐に何かが入っている。幼い女の子だ。冷酷な藤太はそんな赤ん坊は見捨てようと言うが、新八郎の良心は許さない。

この子を自分の責任で立派に育てあげ、大きくなったら、「親の仇」として自分のことを仇討ちさせてあげようと新八郎はいうのだ。藤太にとっては足手まとい。盗んだ200両を折半して、新八郎のことなど構わずに逃げていってしまった。

新八郎は乳飲み子を抱えて旅に出る。6年前に「剣術の修行に出る」と家を出た弟を探し求める、東海道の旅だ。遠州の金谷宿で、茶屋の店先で赤ん坊に乳を飲ませている母親の姿を見た。「ああ、この子にも乳を飲ませたい」と、断られるのを承知でお願いすると、店の主人・熊五郎が出てきた。「いいですよ」。嬉しい返事だった。

そして、熊五郎は新八郎に事情を訊く。もちろん、強盗のことは隠して、母親が産後の肥立ちが悪く亡くなり、「娘」を一人で育てながら旅をしているのだと。正直者の新八郎だから、そんな嘘をつくのは本当は嫌だったに違いないと僕は推測する。

熊五郎はとても優しい人で、家が一軒空いているから、そこを寺子屋にして、手習の師匠をしなさいと勧めた。「娘」の面倒も見てあげるという。人の優しさというのは本当にありがたいことだ。そして、新八郎は「娘」をお花と名付けて呼び、熊五郎夫婦の庇護を受けながら何とか暮らしてきた。

そして、16年が経った。お花は18歳だ。今では貧乏ながらも幸せに暮らしている新八郎父娘のところを訪ねるものがいた。藤太だ。相変わらず悪事に悪事を重ねて生きているようで、上方に高跳びしたいから「先立つもの」をよこせと50両を要求する。ようやく手塩にかけた娘との穏やかな暮らしを掴んでいるのに、そんな大金などない。

すると、藤太は16年前の本郷伊勢屋殺しの件を密告するぞ、と強請る。困った新八郎は「明朝までに50両とはいかないまでも、20両くらいだったら用立てられるかもしれない」と藤太に言う。本心は夜逃げしかないと思っていた。すると、納得した藤太が去ろうとしたときに、刀を持ったお花が現れ、藤太を刺し殺した。陰で話を全部聞いていたのだ。

新八郎は真相が明らかになったことを悟り、お花に親の仇討ちをさせようとする。「私のこの首を撥ねてくれ」。だが、お花はニッコリと笑い、新八郎の両手を握って、感謝の言葉を言う。「あなたが悪いわけじゃない。ことの起こりは全て藤太のせい。あなたは、わたしを育ててくれた大恩人です。父上です。生みの親より育ての親」。

これから奉行所に名乗って出るという新八郎に対し、お花が自分こそ名乗り出ると、父娘二人で奉行所に自首をする。果たして、この裁きは?そして、裁く奉行は新八郎が22年前に別れた弟の新六郎!さあ、どうなる!?というところで、「ちょうど時間となりました」。

親子の本当の愛情とは何か。真面目に生きる「父」と「娘」に涙を禁じえなかった。