【プロフェッショナル スタジオジブリ プロデューサー・鈴木敏夫】自分は信じない 人を信じる(上)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 プロデューサー・鈴木敏夫」を観ました。(2006年4月6日放送)

世界のその名を轟かせるアニメ界の巨人・宮崎駿監督。その栄光は一人の男抜きには語ることはできない。スタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫である。独自のアイデアでヒットを呼び込んできた。観客動員2300万人を誇る、アカデミー賞を受賞した「千と千尋の神隠し」(2001年)。少女が生きる力に目覚めていく物語にしようと提案したのは、鈴木だ。この男の元で1000人の人間が動く。それぞれの力を最大限に引き出す鈴木マジックとは何か。

鈴木敏夫。映画の企画から予算調整、人集め、スケジュール管理、宣伝戦略、すべての責任を負う総責任者だ。映画の初めから終わりまでを担う。人を巻き込んで、その気にさせる秘密はどこにあるのか。

東京小金井にあるスタジオジブリの仕事場。新作映画「ゲド戦記」の制作が佳境に入っていた。監督は、宮崎駿の長男、宮崎吾朗。夏の公開に向けて追い込みの真っ只中だ。音楽制作や宣伝準備が着々と進んでいた。プロデューサーはそれぞれのスタッフをやる気にし、持てる力を引き出すことが仕事だ。

鈴木が大切にしている流儀がある。仕事を「祭り」にする。億単位の金が動くビジネスの場でもその考えは変わらない。

「ゲド戦記」の協賛に名乗りをあげた大手飲料メーカーの幹部がこの日、訪れた。映画のタイアップは今回が初めてという企業だ。単にお金を集めるだけでなく、いかに映画作りという「祭り」の中に引き込むか。それが鈴木の腕の見せ所だ。一般の人には見せない、アニメーションの制作現場を案内して、協賛メーカーをその気にさせていった。

鈴木にとって、プロデューサーとしての腕を常に試される相手がいる。宮崎駿。前作から2年。いまは、地球儀作りに没頭している。宮崎が新作を作らなければスタジオの存続にかかわる。新しい事務所の設計を耳に入れる。やがて、宮崎が次の作品について語り始めた。だが、鈴木は自分では話を進めない。宮崎の中で構想が熟すのをひたすら待つ。

宮崎が言う。

作らしているようなふりはしないで作らせる。あおっていないふりをしながら、あおっている。それが鈴木さんのうまさなんだよね。

気の重い報せが入った。新作「ゲド戦記」の制作が大きく遅れているという。鈴木が手掛けている映画の予算は数十億。ひとつ判断を誤れば、巨額の損失が出る。常に猛烈な重圧が鈴木にのしかかる。

鈴木が心に決めていることがある。

「自分は信じない。人を信じる」。

自分を信用しないのよ。信用しちゃいけないと思っているの。一人の人間が考えることはたかだか知れているという考えなんですよ。これは誰であっても。

鈴木は今回の新作映画である試みを考えていた。ヒロイン役が歌う挿入歌を宣伝の前面に打ち出す戦略だ。しかし、CDが売れない今の時代にどうやって売り出すか。

壁にぶつかったとき、鈴木は周囲の人間に解決策を求める。大手CDショップ、音楽制作会社に勤める人間に集まってもらった。なかなか良いアイデアは生まれなかった。だが、仕事を忘れたとき、いい仕事ができると鈴木は考えている。

つづく