立川笑二「お菊の皿」「質屋庫」古典落語の構成や設定に手を加え、リニューアルを図る手腕に冴えがある

お江戸上野広小路亭で「立川笑二独演会」を観ました。(2021・08・25)

笑二さんが従来ある古典落語に手を加え、構成や設定を変えて新鮮な高座に作り替える努力をしているのは、さすが談笑一門の弟子だなあと感心する。この日の「お菊の皿」と「質屋庫」は古典に新しい風を吹かせて、大変満足のいく高座であった。

「お菊の皿」は出発点からして、違う。熊五郎が八五郎に出かけようと誘う。どこへ行くんだ?何があるんだ?と訊くと、お屋敷だと言う。それも幽霊の出るお屋敷。隠居からそういう屋敷があって、その幽霊が美人だから行こうぜ!と道々、その幽霊の曰く因縁を話しながら屋敷に向かうのだ。

最初は二人の肝試しごっこだったのだが、誘われた八五郎の方がその幽霊を気に入ってしまって、毎晩通うようになる。「早く行かないと、連日札止めなんだよ」。さりげなく、お菊さんの評判が江戸中に知れわたっていることを匂わせる。興行主が現れてとか、お菊煎餅が売れて、とかそういう垢がついた要素は入れないのが、逆にいい。

八五郎がなぜそんなにお菊さんにご執心かというと、幽霊は裏切らないからという。タバコ屋のミー坊は他の男に寝返る。そんな辛い思いはしたくない。それだったら、人間に惚れるよりも、幽霊に惚れる方がよいだろうというわけだ。なるほど、理屈である。

「質屋庫」も、出発点から違った。三番蔵から幽霊が出るという噂が町中に立つということはなく、番頭さんが夜中にハバカリに立ったら、幽霊を見て、気を失って倒れていたところからはじまる。確かに、あれは人魂だ、と番頭さんは証言する。

それを聞いた旦那が推測する、「長屋のおみつさんが旦那に安く言って買ってもらった繻子の帯…竹の筒にカラカラストン」は従来の型と変わらないが、旦那の妄想がどんどん膨らむのは楽しい。

三番蔵の見張りをするのは番頭さんだけでは心細いというので、熊さんに頼むのも同じだが、熊さんには「幽霊の一件」の話はしない。「泥棒が出るので、見張りをしてほしい」と頼む。酒、沢庵、味噌、と泥棒行為を働いてきた熊さんが泥棒の見張りをするというのも、また可笑しい。

ご馳走を食べ、酒を飲みながら、番頭さんと熊さんの二人で見張りをするわけだが、やがて酔いが回ってしまい、寝込んでしまう。と、熊さんがいないことに気づく番頭さん。三番蔵で人魂が…身の丈八尺の男がもぞもぞしている。思わず、番頭さん、「出たあ!」と叫ぶと、それは箪笥を背負った熊さんだったという。

なるほど、熊さん、泥棒根性が抜けないのね、という噺に作り直した笑二さんに拍手喝采である。