【プロフェッショナル 絵本作家・かこさとし】ただ、こどもたちのために(中)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 絵本作家・かこさとし」を観ました。(2018年6月4日放送)

つづき

かこさとし、41歳。大人気シリーズとなる「だるまちゃんとてんぐちゃん」出版。6年後には、最大のヒット作となる「からすのパンやさん」を刊行。半世紀以上をかけ、500冊以上の絵本を生み出してきた。

長女の万里が語る。

そのとき(終戦時)に誓いを立てたわけですよ。これからの命はこどもたちのために使うって。だからそれは死ぬまでやるんだと。88歳くらいのときにも、「先生、これで十分ね、こどものために沢山描いてきたから。そろそろ休まれるということをお考えにならないんですか」って、若い記者さんが半泣き状態で訊いたことがあるんですよ。そうしたら、首を横に振って、「いやいやいや、まだまだ」って言いましたね。

3月15日、病院へ。貧血がひどく、輸血が欠かせない。状態はけして良くなかった。

3月31日が誕生日で、「その日は家族が集まろうね」と、「それまであと何日あるかな」って、「生きているかな」って、言いましたよ。

ありのままの姿を記録してほしい。それがかこと家族の願いだった。

翌日。病院から自宅に戻ったときに、かこが以前に書いた「だるまちゃんとうらしまちゃん」の原稿を孫が読み、「面白い」と言ったら、かこは機嫌よく、久しぶりに玉手箱と乙姫様を描いたという。

3月19日。かこは書斎に向かった。体調はけしてかんばしくない。だが、書斎に行きたいと急に言い出したと言う。取り出したのは、しばらく眠らせていた仕事。水を題材にした科学の絵本だ。2年前から構想をあたため、半年前に文章が完成。後は絵の完成を待つのみとなっていた。

かこが言う。

編集意図をはっきりさせないとね。小さい子のやさしい科学の本というか、そのタイトルによってさ、内容をもっとやさしくするか、いまひとつはっきりしないと。

かこはどんな年齢層のこどもに向けて描くのかということを気にかけていた。その後、この本をめぐって壮絶な日々が訪れることになった。

かこの500以上の作品に、一つの流儀が貫かれている。

「“こどもさん”をあなどるな」。

かこの絵本の特徴の一つは、登場人物や食べ物や道具などが驚くほど数多く、しかも入念に描かれていることだ。そして、もう一つの特徴は、物語の起承転結をゆるがせにせず、考え抜かれていること。

例えば、宇宙をテーマに描いた作品では、何と最初はノミのジャンプからはじまる。そして、様々な生き物の跳躍力や、飛行機などの速度に話を展開。さらにロケットによって一気に宇宙へ。読者はいつのまにか150億光年のかなたにまで連れ出される。

こどもたちは物事を隅々まで観察し、僅かな緩みさえ、たちまち見抜く最も厳しい客。でも、あなどることなく丹念に作り込めば、素直な反応を返してくれる。それこそが、かこの原動力なのだ。

かこが語る。

こどもさんにいろんなものを読んでいただければと思って描いてきたのですけどね。こどもさんというのはね、「おもしろかったよ」っていうのをしまっておけない。そういうね反応が出るようなものを描かなければいけない。逆に言うと、教えられたのですね。こどもさんのね、反応が出るようなその力がなきゃ、お前、描く意味がないよっていうのをね、示してもらったような。

つづく