【プロフェッショナル 絵本作家・かこさとし】ただ、こどもたちのために(下)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 絵本作家・かこさとし」を観ました。(2018年6月4日放送)

つづき

3月21日。水の本の打ち合わせで編集者がやってきた。だが、体調がすぐれず、体が痛む。だが、かこ自身も「何歳向けのこども向けなのか」詰めておきたかった。「幼いときの科学の本、小さいときの科学の本、という編集態度でいいのか、示して頂くと大変ありがたい」。そう言ったあと、これ以上打ち合わせができないほど体調が悪化し、かこは寝室で休むことにした。

長女の万里は編集者に伝えた。絵を描くことは体力的に難しい。絵については、誰か他の方にお任せしたい。それならば、負担を減らすことができ、絵本作りに向かわせてあげることができるのではないか。苦渋の決断だった。

万里が語る。

私は娘として接しているのか、かこさとしの応援部隊として接しているのか、ちょっと自分でもわからないんですけれども。娘ではあるんだけれど、かこさとしという人生を支えていきたいなというのが…。娘だとしたら、薄情な娘かもしれないんですよ。仕事なんかどんどん入れっちゃったりしてね、「もうちょっと、がんばって」とか「もう一つ、がんばってみたら」みたいな言い方して。

酷なのかもしれないけれども、かこさとしの理解者としては理解しているつもりなので…。ちょっと私も頭の中でまとまっていないんですけれども。

かこ本人も「別の作家に絵は任せる」という万里の提案を受け入れた。

4月10日。約束の取材最終日。かこは、この日も書斎へ向かった。水の絵本について、絵を担当することになった鈴木まもると打ち合わせをするためだ。鈴木は、かこの作った文章と下書きに合わせ、大まかなイメージを描いてくれていた。説明に耳を傾ける、かこ。「これで十分だ」と、概ね了解をしたとことで、体に痛みが走った。体調の回復を待った。

回復したかこは、「水の粒の形を球形にすべきではないか」と意見を言った。さらにもう一つ、「一番やさしい、というところを狙ってやるということで割り切るのがいいのではないか」と発言した。初めて科学に触れるこどもたちのためにもっとやさしい文章の方がいいのではないか、と。

そして、ポツリと言った。「文章も全部、ご破算だ」。

文章をもう一度、見直したい。絵本作家かこさとしは、こどもたちのことを考え続けていた。そして、自分で自分にボツを出したのだ。「ボツだ」。

かこが語る。

宿題がいっぱいあるんですけどね。いろんな発想はするんだけど、完全に仕上げるまでが、とてもつらくて。

それから21日後、かこは息を引き取った。

人間の遺伝子などについて描いた、かこの絵本にこんな一節がある。

一人の人間は年が経てば死にますが、個にわたった生命の設計書は千年も万年も生き続けるのです。今、あなたが生きているのは、こうして生命の設計書がおよそ40億年引き継がれてきたからですし、人間の集まりが支えとなってきたからです。

そして生命の設計書はこれからも人間とその集まりによって受け継がれていくことを思えば、むやみに死を恐れることもないし、死の悲しみも乗り越えられることでしょう。

ただ、こどもたちのために。かこさとしさんのご冥福をお祈りいたします。