【プロフェッショナル 絵本作家・かこさとし】ただ、こどもたちのために(上)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 絵本作家・かこさとし」を観ました。(2018年6月4日放送)

絵本作家のかこさとしさんが2018年5月2日に亡くなった。享年92。この番組は、亡くなる2か月前の3月11日から一カ月間の創作現場を取材したものである。死期が迫っていることは、本人も家族もわかった上で、「生きた証を残せるのなら」と取材に応じて頂いたという。番組冒頭のナレーションが秀逸だった。

これは追悼番組ではありません。最後まで絵本作家として生き抜いた一人のプロフェッショナルの記録です。

取材に協力した本人と家族は勿論だが、取材をお願いしたディレクターの熱意と覚悟にも、ただただ頭が下がるばかりである。(以下、敬称略)

発行部数240万を誇る「からすのパンやさん」、「だるまちゃんとてんぐちゃん」にはじまる「だるまちゃん」シリーズは190万部。500作以上の絵本を生み出してきた巨人、かこさとし。

長女の万里は言う。

もうそろそろお仕事を少し休まれてはいかがですかとか、何回も言うんですけど、「死んでから休みます」って。

なぜ、老絵本作家は描くことをやめないのか。

かこの答えはこうだ。

絵本そのものよりもこどもなんですよね。格好良く言うと、未来を築くこどもになってほしい。

ただ、描きたい、残したいものは沢山あるけれど、病が襲いかかって近年は思うようにいかない。9年前に腎臓を患い、車椅子の生活になった。さらに、緑内障で視野が徐々に狭まっていく。左目はすでに見えず、右目だけでは遠近感がつかみづらい。その右目も視野が狭まって、かつては当たり前のように引けた線が描けず、短い線を繋げて描くようになった。

だが、それでも、かこはコツコツと絵本作りを続けてきた。

今年(2018)1月、東日本大震災に思いをこめた作品など、「だるまちゃん」シリーズを3冊同時に出版し、こどもたちを喜ばせた。

しかし、3月に入って、仕事に向かう気力が急速に失われ、書斎から足が遠のいているという。

かこは大正15年生まれ。こどものときから絵を描くのが得意だった。お国のために軍人を志したが、視力が悪かったために断念。友人は次々と戦地で命を落としていった。

19歳の夏、終戦。かこを愕然とさせたことがあった。周りの大人たちが態度を一変させたことだ。

かこが語る。

戦争中には国のためにどうのこうのと言って先頭に立って、そうやってきた大人が戦後、くるりとね何にも反省も、自分の後始末もせずに「俺は戦争に反対だったんだ」なんて、しゃあしゃあと言って、それを見ているこどもたちというのはね、大人に対してどう思ったか。

かこは自らを恥じた。無批判に戦争に賛成していた自分を激しく嫌悪した。

自分も同罪なんです。どうやって償わなきゃいかんかと。

生涯を貫く一つの決意をした。

大人に染まらない。こどもたちに未来を託そうと。大人の言うことだけを聞いているんじゃだめだと。見分ける力を自分で持て。“応援団”みたいなのくらいは、できるかもしれんと。

かこは得意の絵を生かし、自ら紙芝居を作って、読み聞かせるボランティアをはじめた。それが評判を呼び、33歳で絵本作家としてデビューした。

つづく