【プロフェッショナル 棋士・羽生善治】直感は経験で磨く(中)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 棋士・羽生善治」を観ました。(2006年7月13日放送)

きのうのつづき

将棋界をリードしてきた羽生善治。その20年は内なる自分との戦いでもあった。

中学3年生、15歳のときにプロになり、10年に一度の逸材と注目を集めた。

羽生の才気が周囲を驚かせた対局がある。平成元年のNHK杯。相手は名人、加藤一二三九段だった。羽生は勝負どころで誰も予想していない一手を指し、勝利した。このとき、18歳。

その後、勢いにのって次々とタイトルを獲得していった。そして、平成8年2月、王将戦。谷川浩司九段を破り、25歳の若さで7冠を制覇。頂点を極めた。

だが、その後、漠然とした不安に駆られる。この先、どうなるのか。

羽生が振り返る。

まだ、そのとき、棋士になって10年。たった10年の話なんで、それで終わりじゃない。これからはじまりというか、これから先が大事ということなんで。それに対して、どうしようかということはあったと思いますけど。

棋士としてどう生きていくのか。迷いとともに、成績にも翳りが見え始める。30歳を過ぎると、自身を持っていた閃きや記憶力が衰えてきた。

平成15年、竜王戦。同期で同い年の森内俊之九段に予想外の4連敗を喫した。しかし、問題は結果よりも将棋の内容だった。羽生の持ち味の積極果敢な攻撃を繰り出せなかった。守りに入り、気が付いたら負けていた。

羽生が語る。

無謀なことをしなくなるということでもあるんですよ、守りに入るって。そこに決断が鈍くなるなるとか、決断にためらいが生じるとか、あるいは選択が中途半端になることとかが起こるようになるんです。

このあと、羽生は勢いにのる森内に王将、名人とタイトルを奪われ、王座ひとつだけになってしまった。

そんなある日、見慣れているはずのある光景が目に止まった。若手棋士と対局するベテラン棋士の姿だった。加藤一二三(64)、内藤國雄(65)、有吉道夫(69)(※年齢はすべて当時)還暦を越えてなお、自分の将棋を極めようとしていた。羽生はハッとした。

才能とは、努力を継続できる力。

棋士はただ勝つだけのために将棋を指すのではない。自分の将棋を極めることにこそ、価値がある。

天才と呼ばれた男が、迷いの中で見つけた自分の道だった。

つづく