【プロフェッショナル アートディレクター・佐藤可士和】ヒットデザインはこうして生まれる(下)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 アートディレクター・佐藤可士和」を観ました。(2006年1月31日放送)
きのうのつづき
佐藤可士和は東芝にいた。2月に発売される新製品の広告会議だ。現在試作中の新型の携帯電話である。実はこの携帯電話そのものも佐藤がデザインした。自身初めてとなる工業製品のデザインにあるコンセプトを立てて挑んだ。「潔さ」。直線と平面に徹底的にこだわったシンプルな形だ。そこに「潔さ」をこめた。
製品作りから広告戦略まで全てが佐藤に託されている、プロダクトデザイン。自らがデザインした携帯をどうやって広告し、世間の目を引き付けるか。
広告代理店を交えての会議。代理店のデザイナーからアイデアが出された。しかし、インパクトに欠ける。「広告のための広告じゃなくて、町で何を見たら、コレ欲しい!って素直に思うか。それがインパクトだと思うんだよね」。
携帯電話は新製品が年間200を超える。あの手この手で広告される。機能の多さをアピールするキャッチコピー。タレントを使ったイメージ戦略。億単位の広告費が使われている社運がかかった携帯電話。何を前面に押し出せば売れるのか。佐藤もなかなか答えを出せずにいた。
佐藤が言う。
ダサイ方がいいのかな。ポピュラーで、ゆるくて、タレントの女の子とかが出てやった方が、オレの意図とは全く関係ないけど、それの方がバカ売れしたりして、とか。自分の美学には全く合わないわけだから。それを曲げてでも売れた方が潔いのか。自分の美学を曲げることがすでに邪なことなのか。それはどっちが潔いのだろうと悩んだりとか。
佐藤は富山に向かった。携帯電話の部品工場で色のチェックがあるため、佐藤自らが立ち合いを希望して来たのだった。製品作りに取り組んで2年。佐藤は一切の妥協はしなかった。用意された最終サンプルにも首を縦に振らない。もう一度やり直し。2時間後に新しいサンプルが出来てきて、ようやくOKを出した。
あとは売るための広告だ。佐藤には決断に迷ったとき、いつも従ってきた流儀がある。「迷ったときは最も困難な道を選ぶ」。
覚悟を決めた。タレントは一切使わない。機能を売り込むキャッチコピーもしない。ポスターにあるのは、ただ製品の写真のみ。それが最も難しく、ゆえに最も力強く、人々の心に届くと信じている。
東芝へは、プレゼンテーションの1時間前から乗り込んだ。常識外れの広告をクライアントに認めさせるという重圧があった。担当者を前に、プレゼンした。
デザインのコンセプトである「潔さ」は、当然、広告のコミュニケーションのコンセプトにもなっていくわけです。だから、商品で勝負する。白い背景にただ商品だけの広告写真。全ての媒体に共通するビジュアルです。広告がどのように世に出るか、すべて本物を用意しました。新聞広告はこれです。ポスターはあれです。
クライアントからは疑問の声も出た。ここが正念場とばかりに、佐藤は持論を展開した。大量に情報が溢れる現代において、広告は基本、見てもらえないものである。無関心の人のバリアをどう乗り越えるか。バーンと割り切って記憶に残るもののみ、見てもらえる。熱弁が功を奏し、クライアントの承諾を得た。
佐藤可士和にとって、プロフェッショナルとは?
やっぱりハードルが高いことを越えられる人がプロじゃないですか。だから、普通の人ができないことをやるのがプロだからと思うんですけど。自分がいいと思うものを世の中に出したいと思っているし、自分がいいと思うものが一番実は難しくて、すごいハードルが高いので、それをどうクリアしようかなと。
放送から15年。佐藤可士和さんの活動はいまだに注目を集めるものになっている。それは時代を見る目がきちんとあるからだ。それは、師と仰ぐコピーライターの鈴木聡さんの教えに繋がっていて、「いま、どんな時代なのか」をとことん考えることの大切さを痛感する。勉強になりました。