【プロフェッショナル アートディレクター・佐藤可士和】ヒットデザインはこうして生まれる(上)
NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 アートディレクター・佐藤可士和」を観ました。(2006年1月31日放送)
もう15年前の放送であるが、佐藤可士和さんの広告に対する考え方は、アートディレクターに限らず、コピーライターやクリエイティブディレクター、もっと言えば、広告業界のみならず様々なクリエイティブな現場で働く人間にとって共通して頷けるもので、僕自身も随分前からリスペクトしていた。今、改めてこうして番組を観てみると、15年後の今でも勉強になることがいっぱい詰まっている。
番組冒頭で脳科学者の茂木健一郎さんが、「心をぐっと掴む発想法」がどこにあるのか、見てみたいと発言していたが、単純にSMAPのCD広告とか、「極生」のパッケージデザインとか、「負け犬の遠吠え」の装丁とか、そういった諸々のデザインの凄さというよりも、それらに共通するものは何かに注目して番組を取材、構成した番組ディレクターに敬意を表したい。(以下、敬称略)
キリンビバレッジから炭酸飲料の「キリンレモン」のパッケージをリニューアルしたいというオファーが佐藤可士和に舞い込んだ。佐藤はアートディレクターは医師だと考えている。問診をして悪い所を見つけ、課題をはっきりさせる。クライアントは「お茶やミネラルウォーターに押されて売り上げが1/10に落ちた定番商品」の復活を佐藤に託した。
定番商品ゆえの時代遅れというマイナスイメージ。これをどう払拭するか。都会的な生活の中に、洗練されたイメージで入り込む余地はないか。ノスタルジーではなくて、水を飲むように炭酸飲料を飲む。そんな処方箋を佐藤は考えた。
佐藤のデザイン事務所は渋谷の雑居ビルにある。大きく空間を取ったスペースにゆったりとパソコンを前に座り、雑談をせずにアイデアを浮かべる。無口だ。頭はデザインのことで集中している。SMAPの広告にヒット以降、次々とオファーが来て、現在抱える案件は20。その中で、佐藤が心に刻んでいることがある。「バリアを破れ」。
広告は基本、見てもらえないものだ。世の中に大量の情報が流れていて、関心のない人のバリアを飛び越えて、パーッと目に飛び込んでくるものは難しいと佐藤は考えている。
キリンレモンのパッケージデザインに取り掛かる。どうやって無関心な消費者のバリアを打ち破り、時代遅れと思われているこの商品に目を向けさせるか。デザインという処方箋で現代的な商品に生まれ変わらせる試みを考える。
透明なフィルムにデザインをプリントした。これで洗練されたイメージを与える。商品のロゴは英語に変えた。炭酸飲料の魅力は爽快さ。その爽快さを引き立たせる色と字体の組み合わせを探る。
マネージャーの妻・悦子が言った。「大人向け?お酒みたい」。
今度はカタカナのロゴを作り出した。様々な方向にデザインを振りながら、最適なものを探していく。出来上がったボトルを冷蔵庫に入れた。日常の中で、デザインがどう見えるのか。何度も確かめる。20近いパターンを作って、数日寝かせ、冷めた頭で1つに絞る。
キリンビバレッジへのプレゼンテーションの日。デザインしたものを全部並べた。そして、最後に自分にとってベストなものを伝えた。佐藤の案が採用された。さらに裏にはカタカナのロゴを加えることに決まった。
出来上がったデザインは洗練されたものに見えるが、佐藤がやっていることは「泥臭い」「必死」と自分で言っていた。
つづく