【柳家喬太郎 新作も昔は古典だった】「任侠おせつ徳三郎」
鈴本演芸場で「新作も昔は古典だった」初日を観ました。(2021・07・11)
柳亭左ん坊「子ほめ」/柳家緑太「やかん」/のだゆき/春風亭百栄「ホームランの約束」/春風亭一朝「たがや」/林家正楽/柳家わさび「狸の鯉」/古今亭菊之丞「鍋草履」/中入り/ニックス/蜃気楼龍玉「蔵前駕籠」/ダーク広和/柳家喬太郎「任侠おせつ徳三郎」
番頭が店の乗っ取りを企み、定吉もそれに加担するというダークな部分は、「刀屋」の最終盤でガラリと本家の古典落語と雰囲気を変え、任侠版になる。だが、喬太郎師匠は緻密に「花見小僧」の部分からその任侠版の匂いをちらほらと感じさせているのが垣間見えて、すごい。
まず、定吉だ。花見のことを話さないとお灸を据える、話せばお小遣いをたんまりあげると旦那に言われ、何度も躊躇しながら仕方なく喋るのが本来だが、この高座での定吉はペラペラとおしゃべりだ。脅されて喋っている感じがしない。むしろ、自ら進んで花見でのおせつと徳三郎の仲の良さを話したがっている節がある。あること、ないことと言うが、実際にはなかったことまででっちあげた。終いには、「もういい」と旦那が言うのに、まだ話そうとしている。ここに番頭との共謀が見える。
次に番頭だ。お嬢様と徳三郎が仲の良いと、自分がお店乗っ取りをできないから、旦那にけしかけるように「主従の間のけじめ」を強調する。旦那は「惚れ合っているなら、いいと思うんだが」と言うが、有り得ないことだ、やましいことだと言う。世間が知ったら、恥ずかしいことだと言う。そして、頼まれもしないのに、「万事、この番頭にお任せください」と、おせつと徳三郎を別れさせる段取りを進める。
おせつが婚礼の場から逃げ出したと聞いた徳三郎が刀屋から飛び出す。大川へ身投げしようとしているお嬢様おせつのところへひた走る。再会。そこに強引におせつの婿になる手筈を整えた番頭がやってくる。「邪魔しやがって!」。作戦は失敗に終わったことの腹いせに二人を亡き者にしようとするが、次に駆けつけたのは刀屋主人。「やっぱり、お前か!」とばかり番頭を斬る。さらに駆けつけた定吉も真っ二つに斬られてしまう。
ここのポイントは、旦那と刀屋主人と番頭は昔、3人で悪党をしていた任侠の仲間だったということだ。しかし、改心をして、旦那が興した店に番頭は入り、刀屋は別の店を開業した。だが、番頭だけは悪党の虫がおさまっていなかったということだ。任侠版にした理由がちゃんとそこにあるのがいい。
ところで、おせつと徳三郎だが、大川へ身投げしたにもかかわらず、川はモーゼの十戒のようにパカンと半分に分かれ、川底を歩いて行く。だが、橋の上のチャンバラがおさまると、川は元の流れに変わってしまう。恋仲の二人はあの世で添い遂げることができたのであろうか。ここの部分は謎に包んで、噺は終わる。神様は「生きろ」と一旦言ったのかと思ったが、あの世で一緒になるのも、ロマンチックでいいのかもしれない。