【プロフェッショナル 料理家・栗原はるみ】料理の力を、信じている(下)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 料理家・栗原はるみ」を観ました。(2011年10月24日放送)

きのうのつづき

6月下旬。秋に向け、新たなメニューの開発がはじまる。一つのデザートが候補に挙がった。「鍋で煮て、タルト・タタンをやってみますよ」。リンゴとパイ生地を合わせて焼いたフランス生まれのデザートだ。しっとりとした食感と甘さが今、ブームを呼んでいる。このデザートを全国の食卓に届けたい。リンゴと闘う栗原の夏がはじまった。

リンゴは紅玉を使う。初心者でも作れる簡単な方法とはどんなものか。独自の作り方の模索がはじまった。リンゴをバターと砂糖で煮る。この上にパイシートをのせるのが作り方の特徴だ。

試作第1回。失敗。水分が多すぎて、リンゴが固まらない。何度も試作を重ねる。火加減に気を配り、チャレンジすると、ようやくイメージに近くなる。ケーキが焼き上がる喜びは格別だ。

いよいよ、レシピり作りに取り掛かった。リンゴを煮る火加減の表現が難しい。「中火の弱火?」。栗原が感覚で調整していた火加減をどうレシピにするか。表現の仕方を探る。火の強さをわかりやすくし、調整する回数も極力減らしたい。

さらに難しい問題があった。リンゴは一つ一つ含む水分が違う。同じ煮方をしても、毎回結果が違うのだ。試作16回目を迎えたが、作り方がまとまらない。栗原のレシピ作りが難航するのは滅多にないことだ。

20回の試作でも、先行きが見えない。ついに弱音を吐いた。飽くなき戦いである。できるまでは粘ると覚悟を決めていた。家庭でケーキを焼くささやかな幸せを少しでも多くの人に伝えたい。鍋の種類、リンゴの切り方まで、作り方を変えてみる。何度でも何度でも試作を繰り返す。

栗原が言う。

自分が自信持てないこととかね、自分がこれは違うぞというものは、出しちゃいけないと思うんですよ。ちゃんと自分が納得したものを出してあげないと。自分の仕事をちゃんとやりたいですね。

これまで数多のレシピを世に送り出してきた栗原。ひとつの思いを心に抱き続けてきた。「レシピを信じてくれる誰かの幸せのために」。

7月末。49回目の試作。リンゴの煮方で大事なのは、最後の3分であることを突き詰めた。煮汁にとろみが出たら強火にし、焦げる寸前まで3分近く煮詰める。この方法なら、リンゴに含まれる水分が違っても確実に作れる。レシピの形が見えてきた。

原稿締め切り日。紅玉ではない、甘さが強めの品種のリンゴで、もう一度試してみたいと思った。読者が違う品種のリンゴを使う可能性もあるからだ。レモン汁で酸味を調整。レシピ通りに3分強火で煮詰めた。だが、栗原の顔が曇った。「甘すぎる・・・食感が違う」。原稿は今夜がギリギリの土壇場だ。

出版社に電話を入れる。「他の品種で作ると、似てるけど、本当に同じじゃないということを書いたほうがいいのかも分からないね」。ここでさらに原稿を練り直す。栗原はそう決めた。

もし私が読者で初めてこれ作ったら、迷いますよね。もっとちゃんと書いてくれたらいいのにって、思うかもしれないじゃない。それはすごい嫌だなと思って。曖昧なことはやめようと。

最終的に原稿はこう加筆された。

ここで紹介するレシピは今のところの私の完成形です。秋に旬の紅玉が出回ってきたらどうぞ作ってみてください。

栗原にとって、プロフェッショナルとは?

私が決してプロフェッショナルとは思っていないんだけど、私ができることを誰よりも楽しみながらやれて、それを一生懸命やり続けたいですね。

料理の楽しさを伝える仕事は、誰よりも料理を楽しんでいなければできない。そして、その楽しむという行為は、生半可な気持ちではできるものではない。真剣に、責任感をもって取り組む。栗原はるみさんはとても大切なことを教えてくれた。