【柳家喬太郎 新作も昔は古典だった】「本当は怖い松竹梅」

鈴本演芸場で「新作も昔は古典だった」仲日を観ました。(2021・07・15)

柳亭左ん坊「狸札」/柳家小んぶ「初天神」/のだゆき/春風亭百栄「七ツのツボを押す男」/春風亭一朝「祇園祭」/林家二楽/柳家わさび「宮戸川」/入船亭扇辰「一眼国」/中入り/ニックス/隅田川馬石「堀の内」/ダーク広和/柳家喬太郎「本当は怖い松竹梅」

ミステリーである。伊勢屋の婚礼に呼ばれた梅さんが挨拶をするときに、なぜ「とんだこって」と言ったのか。祝儀をつけるときに、「長者になられた」を「亡者になられた」と言ったのか。梅さんがこの婚礼に反対していた、つまりはお嬢様に惚れていたというところまでは推測できる。だが、そう一筋縄ではいかないのが、この新作の面白いところだ。

行方不明になった梅さんを皆でさがす。手がかりは、謡(うたい)を屋台(やたい)に間違えたことだ。それも、おでん屋。松さん、竹さん、梅さんは同じ長屋に住んでいるが近所に「横丁におでんやの屋台」は出ていない。江戸中に横丁にあるおでんの屋台を探し回る。そこにはお嬢様も加わる。お婿さんが誰かに刺されて、血まみれになっているというのに、お嬢様は梅さんのことが心配だ。もしかしたら、お嬢様も梅さんのことを惚れていたのかもしれないと思わせる。

ようやく、湯島の切通しに「横丁のおでんやの屋台」を見つける。聞き込みをするが、梅さんはそこの屋台でおでんは食べなかったらしいことがわかる。買いにきていた。いつも同じタネを二つずつ。例外はちくわで、これは一本。

さらに推理を働かせると、二人は池之端の待合で逢引していたのではないか、ということまで知恵が働く。カップルがしっぽりと逢引を楽しんでいる待合で、「なった、なった、蛇になった」を連呼する。と、梅さんはそこに一人でいた。梅さんから事情を訊くと、「お婿さんとお嬢様に水を差してやりたかった」という。そうか、お嬢様と梅さんは逢引する仲だったのか…。

これが違うのである。お嬢様の証言が意外だ。お嬢様は梅さんのことを惚れていた。旦那はさばけた人で、所帯を持つのに身分など関係ないと言ってくれた。ところが、何を間違えたのか、その相手が留さんだと思い込み、婚礼の支度を整えてしまったのだった。梅さんも留さんも同じ出入りの職人、間違いはある。

話を複雑にしたのは、梅さんと留さんがお互いに惚れ合っていたということだ。まさか、男性同士で惚れ合っていたとは思わなかった。だから、梅さんは「婚礼に水を差したい」と思ったのか!ミステリーは意外な局面を迎えた。

最後は、梅さんと留さんがお互いを刺し合って、死を迎える。LGBTへの理解が深まった現代よりも一歩も二歩も先をいった同性愛絡みのミステリーに思わず膝を打った。