【プロフェッショナル 囲碁棋士・井山裕太】誰が何と言おうと、自分を信じぬく力(下)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 囲碁棋士・井山裕太」を観ました。(2014年1月13日放送)

きのうのつづき

11月。井山は囲碁の世界一を決める選手権、LG杯に出場するため、韓国へ向かった。中国や韓国に押され、この8年、日本は世界一の座から遠のいている。かつては日本一=世界一だった囲碁が、そうでなくなった。井山は日本を代表して、その威信をかけた戦いに臨んだ。

井山は1回戦で中国の若手に勝ち、2回戦で韓国のトップ棋士に勝ち、勢いがついていた。そして、迎える順々決勝の相手は、中国のチン・ヨウヨウである。中国最強の棋士とも言われる男だ。

井山がチンと初めて対戦したのは小学生のとき。完敗を喫した。

井山が振り返る。

悔しいというよりは驚きの方が大きかったかもしれないですね。勝負できるようになろうと思ったら、今までのようではいけないなと思いました。

中国の棋士たちは競り合いの読みが滅法鋭い。序盤から独創的な手を打ち、相手の読みを超えた展開に持ち込みたいと考えた。

井山の意気込み。

日本のタイトル保持者として、それなりのものを示したいというか、それなりに自信は持っているので、とにかくベストを尽くして、いい戦いが出来ればと思いますね。

すごい鋭い目つきもそうなんですけど、結構迫力を感じるほうで、そういう鋭さというのがチンさんの強みであると思いますし。隙を見せると持って行かれるというか、そういう鋭さを持っていると思いますね。

井山の独創性を封じるチン。よく研究している。長考の末、チンが強烈な手を打った。一手ずつ後手に回る井山。苦しい。挽回の一手を探る。井山が強硬な手を打ったが、左は絶対に譲らないチン。

「一番許さんといった手というか、一番厳しく相手に迫った手ですね」。

乱戦。チンが重圧をかける。形勢はわずかに有利。

4時間後。井山82手目。左の局面を離れた。

「直接攻めても、ちょっとうまくいかないと見て、こちらに打ったんですけれども」。

チンの重圧をはぐらかし、新たな場所へと誘う一手。だが、チンは誘いに乗らない。さらに下から左を攻め上げる。形勢は一気にチンに傾いた。井山は粘るが、チンは的確に返してくる。

5時間半。投了。井山の敗北だ。

井山の自在な手を完全に封じ込めたチン。これが世界一の実力だ。

井山はホテルの部屋に30分籠り、控室にやってきた。棋譜を振り返る人々の輪を遠巻きに見ていた。あの手を選んだ自分とは何か。心は揺らいでいなかったか。井山は碁盤を睨みつけていた。

翌日。井山はいつもの表情に戻っていた。

どういうところが他の棋士と違って強いのか、対局して少し判った気がするので、今回の経験を活かしてなんとかもう少しいい戦いができるように、もうちょっと強くなりたいと思いましたね。

全身全霊をかける頭脳の戦い。遥かな頂を目指して井山の修行は続いて行く。

井山裕太にとって、プロフェッショナルとは?

どういう苦しい局面でも、どんなに未知の世界に入っても、やはり自分を信じること。それに尽きますね。

自分を信じる強さを持ち続ける大切さ。それは囲碁の世界に限らず、どの世界にも言えることではないか。挑戦を継続する井山裕太さんの姿に感銘した。