【プロフェッショナル 囲碁棋士・井山裕太】誰が何と言おうと、自分を信じぬく力(上)

NHK総合の録画で「プロフェッショナル 仕事の流儀 囲碁棋士・井山裕太」を観ました。(2014年1月13日放送)

井山裕太は現在、棋聖、名人、本因坊の3冠である。放送があった24歳のとき、6冠で7冠完全制覇まであと十段を残すのみとなっていた。その後、2016年4月、17年10月に二度、7冠に輝いている。32歳の今、本因坊は10期連続在位しており、囲碁の世界のトップランナーといって間違いないだろう。その井山裕太の囲碁に向き合う姿を追ったドキュメントを記録に残したい。

番組は前年の名人位を獲得した山本敬吾名人(当時)との対戦からはじまった。

井山の碁は「独創」という言葉でよく言い表される。その大胆な一手に本領がある。

井山が語る。

結局人まねばかりしていちゃ勝てないんですね。常識的にはこっちなんだろうけど、自分はこっちを打ちたいというのがあったとしたら、自分は迷わず自分の打ちたい方というか、それを選ぶようにはしてますね。

井山の棋風は、「自分の打ちたいところに打つ」。直感的に打ちたいと思ったことを重んじる。プロ同士の対局は「読み」の力は拮抗することも多い。その中でときには常識外れに見える一手から井山は新たな展開を生み出してきた。

山下名人が井山の黒石に襲いかかる。井山は切り抜ける。白の地を小さく抑え込むと同時に、中央に足がかりを作ることに成功した。

形勢が有利になっても、井山は大胆な手を繰り出し続ける。危険を省みず、踏み込んでいく。安全は最善の策ではない、というのが信条だ。

井山が語る。

安全な手というのは、ちょっとずつ甘い手というか、最善から少しずつ悪い、例えば100点の手から90何点、90何点の手が少しずつ積み重なっていくと、勝負が入れ替わってしまったりするような世界なので、どちらがリスクがあるかっていうと、結構難しい。

対局から17時間半。井山が押し切り、第3局を制し、2勝1敗とした。

井山は今、ある課題と向き合っている。歴代の名人たちの対局を記録した棋譜が保管された日本棋院囲碁殿堂資料館に行き、その棋譜を学ぶことだ。

本因坊道策(1645-1702)、江戸時代に敵なしと言われた棋士だ。300年以上前の名人の打ち方を再現することで、求めているものが確かにそこにあると井山は感じている。

井山は言う。

やっぱり強い人は皆、自分のものを持たれているというか、自分にしかないものというか、自分は絶対ここには自信があるとか、何かそういうところを強い人は持たれているような気がしますね。どの時代でも。

最高の手を思いつくだけではプロの世界は勝ち切きれない。勝負のかかった場面で、ときに大胆な手であっても、信じて打ちきれるかどうか、誰の助けもないなかで、それをやり遂げるのは容易なことではない。

そこには、自分を信じぬく力が必要だ。井山はそこを目指していることが伝わってくる。

つづく