天中軒雲月「男一匹天野屋利兵衛」赤穂義士のために口を割らなかった漢気に感極まる。

木馬亭で「日本浪曲協会 7月定席」二日目を観ました。(2021・07・02)

天中軒雲月「男一匹 天野屋利兵衛」

雲月先生の人情味がありながらダイナミックと言ってもいいのだろうか、豪快な浪曲に酔いしれた。

「討ち入りの道具を誰に頼まれて用意したか?」。大坂町奉行松野河内守が天野屋利兵衛を激しく追及する。だが、天野屋は「今は申し上げられません。来年3月、遅くとも4月には利兵衛の方から申し上げますので、それまで牢内に留め置いて、お待ちください」と頑として口を割らない。

すると、河内守は7歳になる利兵衛の息子、吉松を連れ出す作戦に出る。可愛い息子が泣き腫らしている。抱くに抱けない我が息子を前にしても、利兵衛の心は揺るがない。河内守は白状しなければ吉松を火攻めにかけると利兵衛を脅す。

だが利兵衛は「火攻め、水攻め、何のその」と屈しない。河内守の命で炭火の入った道具が運ばれてくる。「熱い!おじちゃん、どうか許してくださいよ。父ちゃん、悪いで。坊はオイタはいたしません」と泣く吉松。だが、利兵衛は「死んでくれよ、吉松よ。わしは後を追う」と動じない。

「やめてくだされ、白状します。大石様に頼まれました」と口の先まで出かかったが、それでは今までの苦労は水の泡。我が子の火攻めくらいは何のその。ここが我慢のしどころ、とばかり決して口を割らない。

河内守は「お前には血も涙もないのか?」と問うが、利兵衛は「男と見込まれたからには、決して白状しません。たかが、これくらいのことで白状するようでは、頼まれました甲斐がない。天野屋利兵衛は男でござる!」。

とうとう、河内守はこの様子を見て、「身体を大事にしろ」と声を掛け、天野屋に牢に入ることを申し付ける。

年が明けて赤穂義士の討ち入りを知った天野屋は自ら申し出て全てを話す。河内守の「罪を憎んで人を憎まず」という名奉行ぶりもさることながら、天野屋の漢気に感極まった。