木村勝千代「小猿七之助 品川宿」8年ぶりの兄妹の再会だが、胸が張り裂ける思いで隠し通す男伊達の美学。
木馬亭で「日本浪曲協会6月定席初日」を観ました。(2021・06・01)
小猿七之助というと、“一人船頭、一人芸者”の艶っぽいところが有名だが、この日に聴いた木村勝千代さん(曲師:沢村豊子)の「小猿七之助 品川宿」もなかなか良い味わいだった。
七之助が偶然入った品川宿の店で、会ってはいけない妹おこうと会ってしまう。しかし、七之助は胸が張り裂ける思いで、兄であることを隠し通し、おこうにはバレないように去っていく。その去り際がカッコイイ。そこには人の情けが通っているなあとつくづく思った。
だが、なぜバレずに去ることができたのか。それは妹は按摩で目が見えないからだ。何という悲しさであろうか。性質の悪い酔客に殴る蹴るされている按摩を助けてやった七之助は、その不自由な身の上を訊く。
「深川の人」に会いたい…。聞けば、元は深川相川町の住まいだという。行方知れずの兄さんがいる。そして、父親は網打ちの七蔵だと話す。
聞いているうちに「オレが兄貴だ。七之助だ」と言いたくなるのが人の情け。でも、そこをグッと堪える。
「俺には犯した罪がある」。凶状持ちだからだ。世間に顔向けできない身柄。涙ひとつままならぬ8年ぶりの兄妹の再会に心が大きく揺れるが、ここは我慢のしどころだ。
せめて、妹にやってやれあげられるのは、金を掌に載せて渡すくらいだ。そして、「俺は七之助の友達だ。七之助を恨んでくれと言っていた」と嘘をつく。
おこうも「兄さんに会ったら、早く帰ってくるように伝えて」と言う。
もしかしたら、おこうもこの男が七之助だと判っていたのかもしれない。それを考えると胸が痛くなった。