富士琴美「田宮坊太郎少年時代」冷静な判断と深い愛情で、利発な子どもの成長を願う母親の願いが沁みた。

木馬亭で「日本浪曲協会6月定席初日」を観ました。(2021・06・01)

トリの雲月師匠の前(“もたれ”という位置だそうだ)で演じた、富士琴美さんの「田宮坊太郎少年時代」が印象的だった。夫が騙し討ちに遭い、亡くなり、遺児の坊太郎のために心を砕く母親・お辻の姿が目に浮かんだ。世間では「田宮の後家さん」と呼ばれていたそうだが、利口だが体が弱い坊太郎を妙源寺に小坊主として預け、成長をさせる判断をした母親としての決断の強さは如何ばかりか。別れ際に「母でもなければ、子でもない」という台詞はなかなか言えるものではない。

利口な坊太郎は空源という名前をもらい、修行するが、わずか三か月で和尚の機転で父・田宮源八郎の七回忌の法要に行かせるというのもすごい。経文をスラスラと唱えてしまう空源こと坊太郎はどれほど利口だったのだろう。

法要が終わり、お辻は今にも抱きしめたい思いを堪え、お布施を渡す。だが、坊太郎は寺に帰りたくないという。誰が教えたのか、父親は堀源太左衛門という侍に騙し討ちに遭い、殺されたことを知っていた。そして、涙ながらに「父の仇は誰が討つのだ?」と言う。「坊が討つ!憎い敵を討つ!」。

さすがは武士の子、とお辻は思うが、まだ7歳のこの子には早い。15歳になったら、元服し、武芸を仕込んで仇を討たせると約束する。それまでは寺で辛抱せよ、と説く母親の落ち着きと息子の利発が、肩を叩く愛らしさと相まって胸を打つ。

寺の戻った空源こと坊太郎は和尚から、来月17日に牧野生駒守の先祖代々の法要が行われることを知らされる。思わず、口走った、「堀様はいらっしゃるか?」の問い。堀様というのは宿敵、源太左衛門のことである。和尚は「これはまずい」と察知する。思案して、当日は空源を戸棚に閉じ込めることにした。

だが、生駒守の殿様が利発な小坊主の噂を聞いていて、「目通り許す」と言ってしまった。和尚も隠すことはできない。空源こと坊太郎が出てきて、殿様の問答に答えるが、それは見事。何も知らない生駒守は「立派な出家になるのだぞ」と励ましの言葉をかける。

すっかりお気に入りになってしまった空源こと坊太郎は、法要の出席者にお茶を出すことに。殿様を最初に、順々に家来衆にお茶を渡す。その際、名前を尋ねながら渡す坊太郎。18番目の侍が堀源太左衛門だった。坊太郎は源太左衛門に茶碗を投げつける。無礼者!源太左衛門は刀を抜こうとするが、殿様がその場を収め、事なきを得た。

だが、後年、坊太郎は修行に出て、武芸を磨き、見事、仇討を果たしたという。母・お辻の恨みまで晴らしたに違いない。利発で武芸も達者だった坊太郎はきっと出世したに違いない。仇討モノも、このような形で聴くととても興味深かった。