柳家三三「白鳥のみつぐみ」古典に裏打ちされた話芸の上手さが、新作の才能と合体することで最高の傑作が生まれた。

紀伊國屋ホールで「白鳥・三三 両極端の会」を観ました。(2021・06・02)

今回が15回目になる「両極端の会」は2009年にスタート。どちらかが「宿題」を出して、出された方が挑戦する企画は、第3回に白鳥師匠が三三師匠に「任侠流山動物園をやって」とリクエストしたことからはじまる。第11回からどちらも宿題を演じる企画になったが、特筆すべきは三三師匠が毎回、新作にチャレンジするようになり、古典の名手が新作にも才を発揮しているということだ。白鳥師匠いわく、「三三は新作を演じているときの方がイキイキしている」。

今回は三三師匠から白鳥師匠への宿題が「やるのかやらないのかわからないけどオリンピックをネタにしてください」、白鳥師匠から三三師匠への宿題が「おれ(白鳥)が出てくる人情噺か怪談噺で!」。で、三三師匠が創作したのが「白鳥のみつぐみ」という作品。今回、改めてその能力の高さを再認識したので、書きたいが、終演後に三三師匠は「もう(このネタは)演らない」とは言っていたが、ネタばれはなるべく避けたいので、抽象的になってしまうが、噺の骨格のポイントをちょっとだけ紹介して、如何に三三師匠の創作力が素晴らしいかを示したい。

宿題が「白鳥師匠が出てくる噺」だから、いっそ「白鳥の湖」をモチーフにしようとした発想が良かった。そして、バレエ「白鳥の湖」のストーリーをかいつまんで紹介し、その落語家版とした。その粗筋はご存知の方も多いから、簡単にすると、妃を決めなければいけない王子が森を彷徨い、湖で白鳥を見つけるが、元はお姫様だった。魔物に呪いをかけられ白鳥になってしまったが、男性と永遠の愛を誓いあうとそののろいは解けるという。だが、妃を決める舞踏会にそのお姫様は遅れてしまい・・・。

ここで三三師匠がしっかりとしているのは、その落語家版を作るとなると、落語家の実名がどっさり出てくるので、ここでも一部をのぞき、それは書かないが、「この噺は宇宙の果てにある地球によく似た星のフィクション」と断りを入れたことだ。これは特に楽屋ネタのギャグを多用する場合は必要だと思う。

で、噺はざっくり言うと、花緑師匠が師匠だった五代目小さん亡き後、柳家を率いる人物として成長するために、“身内の師匠”を決めるという物語だ。それではまるで花緑師匠が主人公のように思えるかもしれないが、最終的には白鳥師匠が本当の主人公になっており、しかも人情噺に仕上がっているからすごい。

この噺で白鳥師匠は、皇室ネタの新作を演ることが「落語の神様」の逆鱗に触れ、呪いをかけられ、ある場末の寄席の呼び込みになってしまうという設定だ。その寄席に花緑師匠が迷いこみ、その呼び込みの演じる禁断の落語を聴く。技術は拙いけれど、とても面白くて、物語に引き込まれ、涙がボロボロ出てきてしまう。そして、「僕をあなたの弟子にしてください」と懇願する。

白鳥師匠の高座は、五代目小さんに「いい了見じゃねえか」と評価され、三遊亭圓朝に「白鳥はワシの生まれ変わりだ」と言わしめるほどの高座だった。つまりは、心の底から落語を愛している、肚で喋っているから面白い、ということが証明されたのだ。だから、呪いは解ける。三三師匠は白鳥師匠の落語を「下手だ、拙い」と言いながらも、とてもリスペクトしていることが、この創作から伝わってきた。

やがて花緑師匠は柳家を背負い、白鳥師匠は三遊亭を背負う。三遊亭の紋は「三ツ組橘」。だから、この噺の演目は「白鳥のみつぐみ」なのだ。オープニングトークで紋付の紋について喋っていたが、三三師匠はそこまで逆算していたのか。改めて、その創作力の高さに驚嘆した高座だった。