【SWITCHインタビュー 松任谷由実×坂東玉三郎】「人の心を動かす」最高峰のクリエーターの目指す山登りの目的は同じ(上)

NHK―Eテレの録画で「SWITCHインタビュー達人達 松任谷由実(シンガーソングライター)×坂東玉三郎(歌舞伎俳優)」を観ました。(2017年11月4日放送)

全く異なる分野の、普段は全く接点がなさそうなカリスマ2人が出合い、どのような化学反応の「スウィッチ」が入るのか。第一線で活躍する「達人」同士が、お互いの仕事の現場を訪ね合って、それぞれ、共通する方法論や成功へのヒントを探る。ただの対談では見られない2人のカリスマの化学反応に加え、話し手・聞き手の両方の “顔”を楽しめるクロス・インタビュー番組である。

今回は僕の青春を彩る音楽の作り手であるユーミンと、僕が40代になってから深く興味を持って観劇するようになった歌舞伎の女形のトップである玉三郎さんの回をということで、およそ4年前の放送だけれど、とても新鮮に拝見、拝聴した。きょうは、ユーミンが歌舞伎座を訪れて、玉三郎さんにインタビューするのを主とした前半を記録しながら、勉強してみたい。

歌舞伎界の看板を背負って立つ玉三郎に、ユーミンはさぞ稽古熱心だろうと切り出した。玉三郎は意外な反応をする。

できれば、お稽古は究極、しないほうだけれども…理想とか目標を下げることができなくて、理想に上りつめるのは、これだけ(稽古)しなくちゃならないという逆算があるだけで、できれば逃げたいんです。とにかく、(稽古を)やっておけば無事かなっていう気持ち。それが自分を守ってくれるというので稽古をやるんです。

次に、女形について「舞台に立つってジェンダーレスじゃないですか」とユーミンは訊く。

女形というものって、自分の持っている性を使えない。違うものになっていく。それでお客様に失望させてはいけないと思うなかで、役からはみ出さない、主我が出ないようにとは思っています。

女形最高峰の玉三郎が極めた舞踊。優美な舞いは高い身体能力とたゆまぬ修練から生まれた。高度な表現力が求められる難しい演目、「檀浦兜軍記 阿古屋」。琴と三味線と胡弓を弾く見せ場があり、一つの舞台で三つの楽器が演奏できるのは稀有な存在だ。

一つの憧れというものがあってね、一人前の女形はこれだけの楽器を奏でなきゃいけないんだと思うと、その役ができるかどうかは別にして、やらないと気が済まない。そういう性質なんだと思うんです。偶然にプロとして仕事になっちゃったんだけど、できれば劇場にお客様に来ていただいて採算を取るというか、収入を得るとか、あるいは沢山のお客様が来ないとか、そういうことを考えずに、ただやっていた方が幸せだったんです、実は。

ユーミンは「これまでの演目で一番『やった』感があったのは?」と問う。

やっぱり「政岡」という大役なんですけど。あとは忠臣蔵の九段目(「山科閑居」)という大きな話の外側にあるお母さんの役(戸無瀬)なんですけども、大役で難しい役で、地味な役。結婚を誓っていた娘(小浪)が破談にされる、付き添いの母親はなすすべもないという場面。寄り添う母の心情を細やかに演じる。娘で綺麗で華やかで恋をして失恋してって役はやりやすいと思うんですけども、全くそうでない役にやりがいを感じるんです。

――母性みたいなものも感じられるんですか?

実は僕、母性がわからなかったんです。ある先輩に母性はどうして出したらいいんでしょうかと訊いたら、「母だと思わなくていいよ」って。恋人じゃない、最愛のものだと考えればいいと言われて、「あーっ」と思ってやったら、サッとできたんです。

――荒事も多い歌舞伎の中で、女形の役割とは?

女形も華でなきゃいけないけども、立ち役を良く見せる後見役って言われているんですね。女形は決めていました。自分では。夢のような役柄を演じ、夢のように通り過ぎて、あの人は私生活はあるんだろうか?という人たちを見るのがすごく好きだった。

玉三郎は幼少期に体が弱く、4歳で日本舞踊を習う。7歳で初舞台を踏み、14歳のときに守田家に養子に入り、五代目坂東玉三郎を襲名した。

常に死が傍にあった。常に出来なくなるんじゃないかという思いが小さい頃からありました。お客様に生きてて良かったと、夢のような時間を見て頂く。自分がこういうのは見たくないなというのにはなりたくないという。夢を壊さないようにしなくちゃという思いが被害妄想的にあるんです。

――被害妄想との闘いのところはありますよね。

そんなことないだろうと思うかもしれませんが、実は隠しているんです。

――孤高の美意識の持ち主で、いい意味で皆を寄せ付けないオーラをお持ちです。

バレリーナとか、ダンサーとか、ユーミンさんにもそういう経験があるかもわからないけど、本当に華やかな舞台をお客様の前でやりながら、部屋に帰って、ポツンとしているとき、ない?

――ありますよ。

微妙な寂しさがありつつ、また次のところへ行こうとしながら、次の作品を作ったりするので、そんなことは楽しめないんだけど、そういう仕事だなとつくづく思います。

――選ばれし者の孤独みたいなものに酔っちゃう。

僕は酔わないね。できれば、孤独は避けたい。

――寂しさと孤独は違うような気がする

孤独は好んでいるかもしれない。寂しさは避けたい。

玉三郎は他ジャンルとのセッションも積極的である。太鼓集団「鼓動」との合同公演、「マクベス」や「椿姫」といった海外の作品への挑戦・・・。

好奇心で、今までいろんな役をやってきた。自分で(自分を)作ってきたというところがあるんです。他人に作ってもらったら、どうなれるんだろうと。素材になりきってみたいんです。

ユーミンは19世紀末から第2次大戦の頃のヨーロッパの雰囲気に大変興味があると言うと、玉三郎はそれに共感した。シャンソンが好きなのは、その延長線上だという。

レジスタンス運動、抑圧された中の灯火とか愛とか、そういう世界。叶わないところに愛の喜びと悲しみがあるのかな。叶ってしまうと、愛が語れないというところがあるんじゃないか。(縛りの中での輝きがお好きなんだろうなあ)どこかの中に縛りがあった方が好きなのかな。

シャンソンへの思い入れについては、あすに続く。