【SWITCHインタビュー 松任谷由実×坂東玉三郎】「人の心を動かす」最高峰のクリエーターの目指す山登りの目的は同じ(中)

NHK―Eテレの録画で「SWITCHインタビュー達人達 松任谷由実(シンガーソングライター)×坂東玉三郎(歌舞伎俳優)」を観ました。(2017年11月4日放送)

番組前半の玉三郎パートについて、きのう書ききれなかったので、続きを書きます。

玉三郎は22年前(放送当時)にシャンソンでレコードを出し、歌手デビューをしている。そして、2017年秋、2枚目のアルバムをリリースした。曲は敬愛する越路吹雪の歌ばかりだ。岩谷時子の訳詞も大好きだという。

頬と頬をよせ 燃えるくちづけを かわすよろこび あなたと二人で 暮らせるものなら 何にもいらない 何にもいらない ただあなただけ 生きてゆくのよ

玉三郎が語る。

宝塚出身で年間3カ月日生劇場をいっぱいにする人ってどんな人だろう?というのがはじまりで、そうしたら本当に素晴らしい舞台だった。そのためにどんな舞台裏かしらと思ったら、もうその(舞台)ためだけにしか生きていない。トレーナーを付けている、朝からこういうプログラムで生きている、劇場には2、3時間前から入って自分を整えている。自分もそうやってみたい。岩谷時子さんと知り合いになって、教えてもらって、真似していたんですね。

実際は歌うつもりはなかったんです。でも、50くらいになると、舞台のための声が出なくなってくるんです。発声の先生が友達にいて、発声(のトレーニング)をやったら、年齢の声じゃない声が出るからということで、やってみて、そのうちに歌ったらいいんじゃないの、ということになったんですよ。

――昔のCDと新作を聴き比べたら、「進化してる!」と思いましたよ。

女形って少し受け口めなんです。シャンソンを歌っているときも、少し受け口目の発声なんですよ。女形でいることが、シャンソンに反映されているなあと。歌を遊んでいるうちはいいけど、難しいですよ。

――いろんな芸術家が生まれ変わるなら、歌手になりたいと言っています。

多分それは魂を訴えたいという意味じゃないかしら。人間って何かを叩いたり、叫んだりして、思いを歌にしてきたりしたから、根源的なモノではないのかと思います。

玉三郎は1930年代に活躍した女優グレタ・ガルボ(1905-1990)を敬愛しているという。生き方に惹かれるのだと。ユーミンが自分ではないアーチストに楽曲を提供するときは、「呉田軽穂」というペンネームを使っている。これはそのグレタ・ガルボをもじったものだ。「私は本当は、マレーネ・ディートリッヒ派なんですけど」と苦笑するユーミン。

玉三郎が語る。

ハリウッドで作られたメイク、考えられたドレスやヘアスタイル。身につけたものが自分の一部になっているんですね。それでいながら、身につけたものに壊されない。なんでもやるんだけど、なんでも自分の皮膚になっていく。そういう彼女が好きだったかな。不本意なことを言われたと思うのね。孤独ですね。何か惹き付ける、目が離せない。そして、作られた格好をしていても嘘がない。彼女そのままの魂、オリジナルじゃないかなと思います。そういう意味で、ハリウッドが何をしても彼女の魂は動かなかった。

ここでユーミンがズバッと訊く。「引退は考えたことはないですよね?」。すると、玉三郎の答えは意外だった。

ずっと考えています。どうやってフェードアウトしたらいいだろうか。宣言するのではなく、後で考えたら、あれが最後だったというのが美しいなあ。「あ、あの人、この頃見ないけど」と言っていると、訃報があって、「1年経っているんだ」みたいにしたいな。僕の中で何かお祝いとか、何かのお別れとかでパーティーを開くというのはしっくりこないので、できる限り避けているんです。嘘をしなきゃいけないので。

この5、6年はずっと体力が落ちていくので、もう打ち止めにした踊りは沢山あるんです。まだほかにやることもあるし。まだ、この年齢にいってからやろうというのもあるので、そんなに悲劇的に考えていない。十分やったと思っているし、やらなくなることに対して、重大に思っていないんですね。外に出ていい歳、悪い歳ってあると思います。

いつもひと気が周りにあると、その対極が襲ってくるという恐怖がすごくある。後ろ向きの話になって申し訳ないんですが、その死出の山というのかしらね。生きるというところから死までのそこを越えてしまったら、もう修行は終わりで、楽になるかもしれないという気はしているのね。死出の山のところが心配かな。痛いのよりも、人に迷惑をかける方が嫌だな。

玉三郎は歌舞伎俳優としての行く末をきちんと整理して考えていることに感心した。当たり前のことかもしれないが、老いても自分のペースを譲らず、周囲に迷惑をかけるのはやりたくない。もちろん、老いても素晴らしい芸ができるのであれば問題はないが、人間の体力を考えると難しいことも沢山ある。玉三郎はきちんと現実を受け止め、少しずつ「打ち止め」にした芸もあるという発言に感心した。

あすは、ユーミンのスタジオに玉三郎が訪ね、ユーミンにインタビューをする後半の記録である。