【英雄の哲学 イチロー×矢沢永吉】①輝いている人って、常に上を目指しているし、目線を同じところまで持ってきてくれる大きさがある。

BS―JAPANの録画で「英雄の哲学 イチロー×矢沢永吉」を観ました。

2005年の放送である。矢沢永吉、56歳。イチロー、32歳。シアトルマリナーズで5年活躍した頃で、超一流のミュージシャンとアスリートの対談であり、僕はきちんと腰を落ち着けて観たかったが、忙しさにかまけて、16年が経ってしまった。今回、襟を正して拝見し、改めてお二人の素晴らしさ、一流の一流たる所以に触れることができた。この超ビッグ対談は実りある内容だったため、5回に分けて記録を残したい。

イチローが初めてドラマ出演した話題から対談は始まる。

イチロー 刺激が欲しかったんですね。それに飢えてしまっている。何か違う世界から刺激をもらいたい。一流のものに触れれば、何か感じるだろうということは想像できましたし、こうやって矢沢さんにお会いして、僕は何かを感じると思うし、それが動機ですかね。

矢沢 違う扉を開ける。また何か感じる。いいことですよね。

イチロー 100%の力でいつもやろうとすると、長い間続かないので、70%、80%の力で人を喜ばす魅力をタレントが持っていないと、僕は続けることが難しいだろうと思いましてね。僕は100%で思い切りいきましたから、いっぱいいっぱいでした。

矢沢 僕は呼吸が違うと最初思いましたね。歌手とかロックシンガーは外へ外へ出していく呼吸なんです。比べたら、役者さんは内に内に呼吸を秘めている、あの感じ?それをわかっただけでもよかった。

イチロー 自分が想像もしなかった自分が現れた。そういう感じがしましたね。ああこういう自分がいたのかという新しい発見があって良かったですね。楽しかったですね。

矢沢 またやりますか?

イチロー 調子に乗ると叩かれるのがこの世界ですから。

矢沢 本職がビシッとできていて言えることですからね。

イチロー 今回だって、2割5分で、ヒットが250本だったら、とても出られなかったですから、去年のシーズンってそういうプレッシャーがあったんです。ドラマも決まっているし、200本打てなかったら洒落にならない。

矢沢 出てる場合じゃねえぞ、と言われるから

イチロー 4年間、3割、200本、100得点、30盗塁、ゴールデングラブ賞を続けてきてしまったので、ちょっと苦しかったですね。

矢沢 それで出て、あそこまでの楽しみ方ができて、ひとつ別の扉を開けることができたのは、最高じゃないですか。最高!

イチロー あるコマーシャルの撮影をしていたときに、ある雑誌があったんですね。表紙を矢沢さんが「ヤザワポーズ」とっている。これをできるのはすごいこと。信じられない。偶然、スチールを撮ることになり、真似をさせていただいて、矢沢さんの気持ちになってみようと。これなんですけど。(見せる)

矢沢 最高!お茶目ですね!

イチロー すごいパワーだなと。これを見るだけで、56歳だということが信じられない。僕、50歳まで現役でプレーするというのが今の夢なんですね。このパワーって、どこからくるんだろう?モチベーションとか、すごく興味深くかったんですよね。こうやって初対面で、エネルギーがすごいじゃないですか。初め、ポーンと会ったときって、オーラとか、エネルギーとかを一番感じる瞬間なんですよね。きょうは僕は矢沢さんにコテンパンにやられたいなと思って、ここに来たんですけど。

矢沢 今、イチローさんが50まで現役とおっしゃっていたけど、俺も30のときに「俺、50まで歌うぜ」って言ったんですよ。表現の仕方は違うけど、同じ気持ちなんです。ロックシンガーで現役というのは、40くらいでいいところだろう。どんなに人気があっても、50で武道館でマイク蹴飛ばしてはいけねえだろうというのが、あったんですよ。そういうものがあればあるほど、俺はやるよ、と。見せようよ。それは自分へのケツ叩きでもあったんですね。語ること、言うことによって、風呂敷広げて、やらざるを得ないところまでもっていっちゃうみたいな。50を過ぎて、現在はやるべきものがあるから幸せなんだなあと。これくらいの歳になると思いますね。

イチロー 自分の道が楽な方と厳しい方の両方あったとしたら、常に厳しい方を選んで自分を追い込んでいく。それが50歳を超えてまで残っていることが信じられないですし。だいたい40くらいで魅力にない人って、自分が行くところまで行っちゃって、上からモノを見る、若い人たちを見る、そんな姿勢で来られるんですよね。自分が世の中のことを沢山知っている、色々な経験をしている、だから私が教えてあげるよ、そういうスタンスでこられると、あぁこの人、限界なんだろうなと言う風に思うんです。でも、輝いている人って、常に自分が上を目指しているし、いくら歳が違っても、目線を同じところまで持ってきてくれる大きさがある。それがまさに矢沢さんなんですよね。

つづく