真山隼人「寛永三馬術 越前の巻」26歳の若手が骨董屋から掘り出した探求心に喝采!浪曲のワンダーランドは益々拡がる。

木馬亭で「真山隼人独演会 寛永三馬術」を観ました。(2021・04・04)

「寛永三馬術」というと、一番多く聴くのは「愛宕山 梅花の誉れ」。曲垣平九郎の出世の一席は講談でも、浪曲でも掛ける人が多い。次に多いのは「曲垣と度々平」と「大井川乗り切り」。曲垣平九郎と度々平と名乗る男の出会い、そして道中である。「三馬術」と言うけれど、馬術の達人は曲垣以外に聞いたことないし、誰なんだろう?と、恥ずかしながら存じあげながった。まさか、もう一人が度々平で、本当は築後藩の家臣・向井蔵人だったとは!まだまだ、浪曲を聴き始めて10年未満、勉強が足りません。

で、今回は上方の若手浪曲師である真山隼人さんが、「寛永三馬術」特集をやるという。それも、骨董屋から掘り出した「越前の巻」をネタおろしするという。ここで整理しなくてはいけないのは、「丸亀の巻」=「曲垣と度々平」、「大井川の巻」=「大井川乗り切り」。それに続く話だということだ。この三席をこの順番で唸る!というのだから、やる気満々の隼人さん。浪曲師としての実力もなかなかのもので、曲師の沢村さくらさんとコンビを組んで、圧巻でありました。

ちなみに、ゲストは玉川奈々福さんで、間に挟まって「梅花の誉れ」を唸る!という超豪華版であった。それと、これは帰宅してから調べたのであるが、もう一人の馬術の達人は筑紫市兵衛という人らしい。この人が出てくる講談もしくは浪曲も早く出会いたいものだ。

主眼は「越前の巻」だが、その前の二席も簡単に整理しておこう。「丸亀の巻」は丸亀藩の馬術指南役である曲垣平九郎のところに、一人の男が中間にしてくれと頼みにくる。曲垣が2両というところ、5両で抱えろと高飛車な男だったが、どこか憎めないところがあって、抱えることに。名前は?に「あんたがどもるから度々平にしてくれ」と。これまた初めて知った。ちょっとした行き違いで、藩の重役の甥、葵野源三郎を度々平が斬ってしまって、二人は浪人の身になり、旅に出る。ここまでが「越前の巻」。

「大井川の巻」は曲垣と度々平が丸亀を出て諸国を巡るうちの一幕。東海道を使って江戸へ出る最中の「越すに越されぬ大井川」での出来事。丸亀を出たときは、所持金が50両あったのに、今は無一文。喧嘩仲裁などで何とか食いつないでいたが、二頭の馬を連れて路頭に迷っている父子に事情を聞くと、隣村と利水権をめぐって掛け馬をしなければいけないとのこと。度々平、続いて曲垣の達者な馬術によって濁流を乗り切り、人助けをしてあげたという話。これが「大井川の巻」。

それでいよいよ「越前の巻」となるのだが、江戸も飛び越し、北陸路を旅している二人だった。無一文だが、腹は減る。度々平は褌に一両隠し持っていると曲垣に嘘をつき、鰻屋の二階へあがって腹いっぱい食べたあとに、実は一両など持っていないと白状。仕方ない、二人は馬方に頼んで、清左衛門親方に口を利いてもらい、馬小屋に住み込みの生活を始めた。

曲垣は鰻屋の名前にちなんで「和田平」と名乗り、和田平・度々平コンビ誕生。毎日飯を食らうばかりで、何もせずにゴロゴロしている。あるとき、加賀様から「青蜥蜴」という名の名馬が越前藩に贈られた。これが、ものすごい暴れ馬。馬役の朝倉氏も安斎氏も手に負えない。下手をすると噛み殺される危険さえある。

この話を聞いた度々平は「これはチャンス!」とばかり、その暴れ馬に乗せろと名乗りをあげる。馬が度々平に向かってくるが、度々平はその馬の顔をピシっと叩く。鞍の上にヒラリと乗ると、馬はパッパカと走り出す。馬の機嫌を取るのも、おとなしくさせるのも実に上手い。周囲からは歓声があがる。お見事!

殿様はこれを見て、度々平に問う。「お前は日本一の馬術家か?」。すると、「私は二番です」。ならば名人とは誰かと尋ねる。度々平は、元は丸亀藩の家臣で今はこの藩の馬小屋にいる曲垣平九郎であると答える。日本一の馬術の名人と名が高い曲垣平九郎が城内にいると聞いて殿様は驚いた。曲垣は殿の前に呼び出され、平伏する。

曲垣は1000石で越前家に仕えることになった。度々平には曲垣に奉公するようにいうが、それは出来ないという。度々平とは仮の名で、実は筑後藩の家臣、向井蔵人であると明かす。曲垣の霞隠れ、玉隠れの妙術を会得するよう命ぜられ、曲垣に下郎奉公するふりをして近づいたという。向井もまた越前家に仕え800石を頂くことになった。こうして曲垣、向井、二人の馬術の名人がそろって越前家に仕官するようになったという。

「寛永三馬術」、これによって益々興味が尽きない。まだまだ続編があるはずだ。それに、もう一人も馬術の達人、筑紫市兵衛の話もあるはずだ。巡り会うのを楽しみに、浪曲を聴き続けたいと思った。と同時に、真山隼人さんの飽くなき探求心、チャレンジ精神に拍手喝采である。