春風亭昇太×玉川奈々福 「講談が伯山先生によって盛り上がっているように、浪曲もまもなくその時代が来る」

銀座・観世能楽堂で「奈々福、独演。」を観ました。(2021・03・30)

玉川奈々福/沢村豊子「寛永の三馬術 大井川乗り切り」

同/「椿太夫の恋」(アレクサンドル・デュマ・フィス原作 奈々福作)

第2回の開催である。第1回は2019年2月に映画監督の周防正行さんをゲストに迎えた会に行った。そして、第2回は本来、去年3月に開催予定だったが、コロナ禍で2度の延期があり、この日におこなわれた。

トークゲストは春風亭昇太師匠。師匠は過去に何回か奈々福さんの勧めで浪曲を唸ったことがあり、僕は聴いている。同期の志の輔師匠をライバルに自分が出世していく「春風亭昇太出世物語」をご自分で作って唸ったのである。それが非常に面白かったのを覚えている。まあ、それは座興として、師匠が浪曲をどう見ているのか。そのトークに関心があり、果たしてその内容は興味深いものだった。

現在、奈々福さんの弟弟子である玉川太福さんは春風亭昇太一門にいる。どういうことかというと、落語芸術協会に所属して、寄席に出演する希望があって、昇太師匠の預かり弟子となっているのである。もちろん、太福さんは日本浪曲協会に所属しており、木馬亭の定席にも出演しているのだが、さらに活躍の場を広げたいと落語の定席にも出演しているのだ。鯉八師匠や昇々さん、吉笑さんの4人で「ソーゾーシー」というユニットも組んでおり、全国ツアーも実施している。今、浪曲が若い世代にも少しずつ人気が出ているのは、奈々福さんの幅広いジャンルを巻き込んだ八面六臂の活躍とともに、太福さんの精力的な活動も大きく寄与しているのだ。

さて、昇太師匠。お母さんが浪曲好きだったそうだ。静岡県清水の出身なので、浪曲の代名詞ともいえる「清水次郎長伝」があるように、身近な存在だったのだ。また、大学の落研時代に広沢瓢右衛門の「英国密航」を聴いて、「なんか面白いお爺さんだな」と思っていたとか、初代幸枝若師匠の音源をお風呂で聴いていたとか、色々と浪曲につながっているんだな、と思ったという。

さらに、昇太師匠の師匠・柳昇も浪曲が好きだった。奈々福さんが筑摩書房の編集者だった時代に、「陸軍落語兵」の出版を担当されていた、と縁がつながるのもビックリ。柳昇師匠は亡くなる前、入院しているときにお見舞いに行くと、「浪曲が聴きたいから、テープを持ってきてくれ」と言っていたという。それは、落語の台本を書きたいからという理由だった。最後まで創作意欲に燃える師匠だったのだなあと思う。

昇太師匠は言う。浪曲には、日本人が好きになる色々な要素が詰まっていると。感情を揺さぶる。節がつく。そして、何よりも「一所懸命にやっている人」が好き。甲子園の高校野球と同じですよ、と。奈々福さんが唸っている(「大井川乗り切り」)のを横で見ていて、これだ!と。さらに、落語に足らないのはこれだ!と。

奈々福さんは、逆に落語が粋に見えるという。浪曲は一席やると、パンツぐっしょりになるほど汗をかく。落語は一人で何でもやっちゃうけど、浪曲は三味線がないとできない、二人芸。豊子師匠が相三味線ならいいけど、そうでないときには・・・(笑)。

昇太師匠いわく、日本人は物事を小さくするのが得意だ。落語は演劇。それを削ぎ落して、削ぎ落していく芸。浪曲はミュージカル。小人数の歌劇。浪曲は明治生まれの大衆芸能だから、前時代的なものを捨てて、色々な人にわかってもらおうとした結果、今日のスタイルがある。落語だって、たかだか200年ですよ、商売としては。能や狂言に比べたら、圧倒的に新しい。向こうは家元や宗家があるけど、落語はそういうもんじゃない。

奈々福さんが「愛犬チャッピー」を聴いたときの衝撃を発端に、落語も新作が「端っこからど真ん中へ来ているのではないか」と述べる。新しいものが好き。古典も好き。中途半端がダメだと。「古典落語」という言葉ができたのは昭和30年代。歌舞伎などの芸能に対抗するために、「古典=ありがたいもの」という刷り込みをした。だから、当時は「新作?ちゃんとした落語をやれ」と馬鹿にされた。でも、そういうお爺さんたちが亡くなって、新作が認められるように。新作も古典もないんだ!と圓丈師匠が叫んで、「なんとなく有難い世の中になった」と昇太師匠。

「なんでもないことを浪曲にする」のが面白い、とも昇太師匠は言っていた。「おかずを交換するだけですよ!」(笑)。情報量が少なくても芸になる。寧ろ、少ない方が芸になる。まだまだ、伸びていく芸能ではないか、と浪曲を評価する昇太師匠はさすがだ。お金になることと、実験的なことをうまく組み合わせて食べていけばいい。三波春夫先生の長編歌謡浪曲なども例に挙げていた。

奈々福さんが「噺家による浪曲大会をやりたい」と提案すると、昇太師匠は「浪曲の会をやりたいね」と答える。「そのうち、来ると思う。だって、伯山くんが突然出てきて、講談があんなに盛り上がっているでしょう?浪曲だって、必ずそのときがきますよ。そのためにも、若い人達に広げてください」と、エールを送ったのが印象的だった。