【音曲師・桂小すみ なんじゃこりゃあ!】祝・花形演芸大賞金賞受賞!音楽の可能性の追求は果てしなく続く。

西巣鴨スタジオフォーで「音曲師・桂小すみ なんじゃこりゃあ!」を開きました。(2021・03・28)

この会の翌日に、国立演芸場の令和2年度花形演芸大賞が発表になり、桂小すみさんが金賞を受賞した。昨年度の銀賞に続く受賞である。音曲師という立場で邦楽のみならず、洋の東西を問わないジャンルの音楽に挑戦し、創意工夫を加えた高座を重ねている彼女は、演芸界の宝と言っても過言ではないだろう。それも、今後も今のような精進を続ければ、ますますピカピカに磨かれる宝である。そんな才能がほとばしり、「なんじゃこりゃあ!」とお客様が腹の底から楽しんで頂ける会になったのではないでしょうか。

中入り前は、「たっぷり!三味線ア・ラ・カルト」と題して高座の上から、三味線音楽をお届けした。前回の会で「もっと三味線が聴きたかった」というお客様の声をちらほらお聞きしたことを彼女も覚えていて、前半はこういう構成になった。

冒頭は定番の「伊勢音頭」。さらに「惚れて通う」、「かんちろりん」、「ぞめきにごんせ」と続く。ちょっと早口なお喋りも小すみさんの特徴で、音楽ひとつひとつに対する愛情がこもっているからこそ、その曲への思いを語りたくなるのだ。

そして、「櫓太鼓」。初代立花家橘之助と並んで明治大正期に活躍した女流音曲師・宝集家金之助が売り物にしていた楽曲で、「三味線は弦楽器であると同時に打楽器だ」と、撥を皮に打ち付けるような曲弾きが特徴だ。のこぎり音楽も得意としていた八代目都家歌六師匠(平成30年没)は落語など演芸関係のレコード蒐集家としても有名だったが、その歌六師匠の勧めもあり、小すみさんはこの「櫓太鼓」を勉強した。

芸能史研究者の岡田則夫さんが、この曲は「遠く、近く、強く、弱く、緩急自在に弾く技量が求められる」と書いているが、研究熱心な小すみさんは大好きな小林一茶の俳句を前後に入れて、「自分らしさ」を強調したのが印象に残った。そして、前半の締めは、「柳の雨」。悲劇の人、唐人お吉を歌った歌詞が沁みる。

三味線音楽の世界にたっぷりと浸っていただいた後は、中入り休憩を挟んで、ゲストにお招きした講談師・神田桜子さんの登場だ。講談と音曲のセッションを!という注文に、彼女は「安政三組盃」の第三話「お染とまぬけな泥棒」を読み物に選んだ。泥棒三人組をお染が酒、肴で歓待し、三味線と喉も披露して、骨抜きにしてしまうという話だが、その音曲部分を小すみさんが担当した。

「梅は咲いたか」や「猫じゃ猫じゃ」といった端唄、小唄に混ざって、桜子さんがピアニカを持ち出し懐メロ歌謡を披露する一幕も。講談としても、第一話と第二話の概略をマクラに説明して第三話に入ったので、より愉しい読み物として面白かった。桜子さんの師匠・陽子先生が得意としているネタだそうで、今度機会があったら、陽子先生の「お染とまぬけな泥棒」も聴いてみたいなあ。

講談が終わると、桜子さんが下がって、小すみさんのコーナーは「サクラ、サク。~うたと和楽器、ときどきピアノ~」。何と、三味線のほかに箏と尺八も持参した小すみさんの才気ほとばしる高座は絶品だった。

まずは、正月の定番音楽「春の海」を箏の代わりに三味線で演奏し、大好きな万葉集の歌をうたう。「これはちょっと地味なので、もっとお客様にアピールできないかと、後半はオペラ調に歌う手法を開発しました」というコメントが可笑しかった。その後も凄かった。尺八を左手に持って吹き、箏を右手で弾くというアクロバティックスタイルで、「さくら、さくら」そして「荒城の月」の演奏をしたのだ!これは圧巻というか、舌を巻いたというか、客席も息を飲んだ。和楽器の締めは、尺八で「愛の讃歌」。小すみさんがエディット・ピアフに重なった。

最後はピアノに移動して、2曲。「ザ・マン・アイ・リブ」、そして藤子不二雄原作のアニメの主題曲を英語で弾き語りしてお開き。

いやぁ、兎に角、桂小すみの音楽の才能はいったいどこまで続くのだろうか。果てしない大地にように無限の可能性を見る思いだ。そして、ゲストにお呼びした桜子さんの講談とセッションすることで、また新たなる演芸の形を見出すのも面白かった。まさに、なんじゃこりゃあ!音楽の可能性を追求する小すみさん。彼女が演芸という形で音楽って愉しいね!面白いね!と伝道している宣教師のようにも見えた。