柳家権太楼「藪入り」食べたいものがあるんだ…あったかい、おまんま。削った鰹節に醤油をぶっかけて食べるの。

三鷹市芸術文化センター星のホールで「柳家権太楼独演会」を観ました。(2021・03・14)

権太楼師匠が「藪入り」を演った。師匠自身がマクラで「この噺は金馬(三代目)でしょうね」と言って、「学問なんて何にも知らない人より、苦労した人」と続けた。昔の奉公制度は無給で無休、住み込み。噺家の前座修行で住み込みがあるが、これは「好きでなったのだから、辛ければ辞めればいい」と。奉公はもっと厳しく、即戦力だから、始終怒られっぱなし。夜には読み書き算盤を勉強して、クタクタになって眠ったのだと。

あと、「お駄賃」という言葉が懐かしかった。お客様にもらったり、何か特別な用事をしたときにもらったり。でも、それを貰ったら、すべて番頭さんに報告義務があり、自分のものにしないで、小僧さん全員でプールして、皆でお饅頭を食べたりしたそうだ。

噺の冒頭部分、両親が吉兵衛さんに自分の息子を預けるシーンからはじまるのが新鮮だった。息子の旅立ちだ。「よろしくお願いいたします。亀、いいか。辛抱しろよ。辛いって帰ってきても、家には入れないからな。家はないものと思え。なんでもやって可愛がられろ」。息子に言っていると同時に、父親は自分にも「辛抱」を言い聞かせている感じがいい。

そして、3年。藪入りの前夜。この日を何度も夢見た、お通夜しちゃおう!という父親が実にいい。「あったかい飯」をはじめとする食べ物のこと。チャーシューワンタンメンというのが師匠らしい。あちこちに連れていきたいと赤坂、品川から四国金毘羅、九州別府まで行きたいという親バカよ。4時半には起き出して、玄関の前で掃除をしはじめる父親が可愛い。

そして、亀が帰ってきた。「めっきりお寒くなりました」。父親が風邪をこじらせて吉兵衛さんに帰ったらどうかと言われ、ここは我慢と手紙を書いたこと、その手紙を読んでくれたかと尋ねるが。感極まって、返事が出来ず、鼻水と涙が止まらない父親が愛おしい。「ご遠方のところ、お越しいただき・・・あっしもカカアも達者でござんす」。

涙が溢れ、見えないから、「野郎、大きくなったろうな?」と女房に訊く。お店からのお土産と、亀が自分の小遣いで買ったお土産を渡され、神棚に上げさせる父親は「実は近くを通ったことがあるんだ。でも、声を掛けちゃいけない。こんなところで里心おこしたら、と我慢して、目を瞑って走ったら、大八車にぶつかっちゃった」。

湯に行ってこい、と綺麗な着物を脱がして、自分の長半纏を羽織らせ、女房のつっかけを履かせ、湯銭を渡し、見送る。そこまで、本当に可愛い息子が帰ってきたと嬉しがっていたのに、女房が亀のがま口から5円札3枚を見つけたところから雲行きが怪しくなり、「野郎、やりやがった」。単純なところが、この父親の良いところでもあり、悪いところでもある。

亀が湯から帰ってきて、ひと悶着はあったが、盗みの嫌疑は晴れたところからの親子三人の団欒がいい。女房が亀に言う。「おとっつあんは、お前にあれを食べさせたい、あそこへ連れて行きたい、と寝ていないんだよ」「お前の泣き顔は見たくないから、一緒に三人で鰻、食べよう」。ここで亀が言う台詞がいい。「食べたいものがあるんだ・・・あったかい、おまんま。削った鰹節に醤油をぶっかけて食べるの。夢だったんだ」。喜んで鰹節を削る父親が微笑ましい、素敵な高座だった。