玉川太福「サカナ手本忠臣蔵 その1」義士伝のパロディを作る難しさを超えて、果敢に挑んでほしい試みだと思った

江戸東京博物館小ホールで「玉川太福 サカナ手本忠臣蔵~勉強会その1~」を観ました。(2021・03・13)

忠臣蔵をテーマにした会を何度か開催してきた、らくご@座さんが、「登場人物が魚類になる雑想」がふと転がってきて、そんな思いつきを実現してくれそうな芸人さんを夢想して思い浮かんだのが玉川太福さんだったという。「忠臣蔵」+「魚」+「浪曲」で、どんな太福ワールドが展開するのか。その1回目ということで、刃傷松の廊下ならぬ「刃傷サンゴの廊下」からスタートした。

新作浪曲と言っても、義士伝をベースにしているので、三遊亭白鳥師匠が「任侠流れの豚次伝」と「清水次郎長伝」との関係とは全く違う。ストーリー展開はあくまで本家に原則忠実で、パロディ的に登場人物を魚介類になぞった内容なので、オリジナリティの部分は物足りない印象を受けた。でも、吉良上野介がボラコウズノスケ、浅野内匠頭がアサリタクミノカミという、おなじみの洒落からもわかるように、ストーリーを全編この調子で押し切るパワーは浪曲だからこそ!という気がした。ダジャレ(またはオヤジギャグともいうが)が啖呵だけだときついのだが、節に乗ると不思議なことに気持ちがいい。

畳替えにタタミイワシ。ボラの卵は塩漬けにしてカラスミとして将軍家に献上。殿中でござるは電通でござる。アサリタクミノカミを止めるのは梶川与惣兵衛ならぬカニカワヨソベエ。サワラ邸の庭で切腹するアサリは「無念じゃ」と目に涙をあふれさせ、カツオカゲンゴエモンに「オオイカクラノスケに伝えてくれ」。

アサリの菩提は泉岳寺ではなく、しながわ水族館に眠っている。辞世の句は「食誘う、醤油がかかる、われはバター、半分残し酒蒸しにする」。さすが放送作家の@座さんとの共作だけあって、言葉遊びが面白い。大法螺吹きに引っ掛けて、オオボラ吹きコウズノスケ、「御家は断絶、身は切腹」が「身はむき身」にしたのもアサリらしいし、アサリが「鮒侍」と罵られるのも面白い。

太福さんがアサリの濾過作用を事前に調べて「1日10リットルも海水を浄化している」という豆知識。アサリの所作も2本の水管をきちんと体現して笑いを取っていた。所作と言えば、ボラのヒレの表現、カニカワヨソベエのハサミ、ディテールにこだわる工夫も面白かった。

ネタおろしを披露した後、10分ほどの休憩を入れて、そこで「らくご@座」のホームページに観客の感想を書いてもらい、それを休憩後に読み上げて、太福さんが今後の高座で参考するべく、耳を傾ける時間を設けたのはとても良いと思った。義士伝をパロディとしていじる、という作業は大変なご苦労があると思うが、今後、2回、3回と回を重ねて噺を積み上げていくと同時に、一度かけたネタをどこか他の場所でもかけて、ブラッシュアップを図るというのもやってみると、より面白くなりのではないかと思った。