【三遊亭粋歌・春風亭正太郎ひざふに二人会】二ツ目を卒業し、新たに旅立つ二人が春一番を吹かせてくれた。

江戸東京博物館小ホールで「三遊亭粋歌・春風亭正太郎ひざふに二人会」を開きました。

二人の真打披露興行まで三週間を切った。粋歌さんは新作派らしく、ご自分でお考えになった弁財亭和泉に改名しての昇進。芸能を司る女性神の弁財天は「弁」(しゃべる)才能の神様。泉のように新作のアイデアが湧いてくるような噺家になれますようにという願いがこめられているのだと思う。

正太郎さんは柳枝という大名跡を62年ぶりに復活させ、九代目を襲名する。明るさと品の良さを兼ね備えた噺家としてますます成長していくことだろう。八代目が「お結構の勝っちゃん」と呼ばれたように、九代目はどんな愛称がつくのか、楽しみだ。

次回からは「弁財亭和泉・春風亭柳枝ひざふに二人会」と名前を変えて、この会は継続する。皆さまのご贔屓を末永く賜りますよう、よろしくお願い致します。

「卒業」三遊亭粋歌

「松本さん、今までどうもありがとうございました。きょうで僕は松本さんを卒業します!」。17年間、松本さんのストーカーを続けていたという長野さん、43歳。中学時代のもっさりした松本さんを「この人は美人になる伸び代がある!」と発見し、高校、大学と成長を見守ってきた。そこには、単純に「気持ち悪い」という言葉では片付けられない人間愛が溢れているような気がしてならない。

「愛宕山」春風亭正太郎

一八が山登りをするところ、サイサイ節を歌いながら調子が良かったのはほんのちょっとで、段々と息が切れてくる。こちやえ節に唄を変えても呼吸の乱れは増すばかり。ここ、僕はこの噺で大好きなところで、色々な噺家さんで演出が違うので興味深い。正太郎さんは、息切れ前、息切れ後、そして繁蔵に尻を押されて登るところ含め、リズムとメロディがあってとても良いと思った。もちろん、かわらけ投げ以降の一八と旦那のやりとり、小判ほしさに傘で崖を降りてしまうところ、金を拾ったあとにハッと気づき、着物を裂いて縄をなう必死さ、一八を人間味溢れる幇間として熱演する高座に拍手喝采だった。

中入り

「グレコ奮闘記」三遊亭ぐんま

元レスリング部だった経験を活かした身体を張った新作落語を披露して、二人の真打昇進を心から祝ってくれた高座に感謝。座布団を使っての、バックドロップのサービスでもあり、嬉しかった。

「たらちね」春風亭正太郎

お嫁さんを待つ八五郎の夫婦でお茶漬けを食べる妄想が好き。ガンガラガンのザクザクのバリバリ。チンチロリンのサクサクのポリポリ!

「落語の仮面第一話 三遊亭花誕生」三遊亭粋歌

美内すずえ作品「ガラスの仮面」を下敷きに白鳥師匠が創作した噺を、粋歌さんが咀嚼して自分なりにアレンジしている。これは圓朝モノを色々な噺家が手掛けているのと同じと彼女が言っていたのに激しく同意した。二ツ目の間に全10話を習得するという目標も達成し、あとは真打昇進後にどのような形でこの連続物を高座にかけていくのか、楽しみである。ファンの僕としては、将来的には10日間の寄席興行の主任になったときに、全10話を並べてくれたら、毎日通いたいくらいである。

一話完結モノとしても通用するので、この日に披露した第一話はかなり頻繁に掛けてきたので何回も聴いているが、もはや粋歌さんのカラーに染まっていると言ってもいいくらいだ。「落語は男の芸能」と言い張る大東芸能の大徳寺社長vs女流落語家で初めて人間国宝になるんではないかと言われた三遊亭月影先生。その軸に花ちゃんの成長物語がある。寄席落語の固定概念を変える片鱗さえ感じる花の創作の才能は、三遊亭粋歌改メ弁財亭和泉の今後とオーバーラップしていくのではないかとさえ思っている。今後が楽しみだ。