【落語ディーパー】を観た(6)「真田小僧」「船徳」「時そば」

NHK-Eテレの録画で「落語ディーパー!」を観ました。

若い世代が落語を知らないなんてもったいない!落語に魅せられた東出昌大が春風亭一之輔たち落語家と、毎回ひとつの演目をとりあげ、深~く語り合う番組。きょうは2019年に放送された3本を観て、そこで知ったこと、感じたこと、学んだことを記したい。

「真田小僧」(2019年3月11日放送)

悪ガキだけど、可愛い金坊が主人公の噺。寄席でよくかかるネタ。一之輔師匠いわく、「客席が硬いと、かける。わかりやすくて、必ず笑いが取れるから」と。わさびさんも「二ツ目の駆け込み寺」ですね、と。お小遣いが欲しいために大人を騙くらかす。それにお父さんがどんどん乗せられ、お客さんも引き込まれるということだ。

子どもが出てくる噺だと、「初天神」「桃太郎」「子別れ」などがあるけれど、「大人より上手だよね」という一癖ある子どもが活躍する。東出さんは志ん朝師匠の「真田小僧」が好きだそう。カラッとしていて、明るいのがいい。1995年の高座の音源が流れたが、金坊が母親の浮気をほのめかし、父親が翻弄される様子が絶妙ですね、と。

「子どもを演じる」ということに関して、一之輔師匠は「声色は使わなくていい」。口調と語尾の持っていき方、表情、特に目の使い方が大事だと。大人より目に動きがある。ほかに、手をいじるとか、顎をあげるとか、そういう細かい演出をすると小痴楽さんは言っていた。

1986年の柳家権太楼師匠(当時39歳)の高座と、2018年の柳家さん喬師匠(当時70歳)の高座の見比べ。子どもの演じ方は全然違うが、どちらも可愛い。父親が思わず銭をあげちゃう可愛さがある。前座も演るし、大真打も演るネタで、その人なりのキャラクターが出る噺ということだろうか。

一之輔師匠は親になって(演じ方が)変わったという。「この噺はお父っつぁんが主役の噺なんだ」と思うようになったと。腹は立つけど、つい払ってしまうもどかしさ。可愛い自分の子どもがバックにないと駄目だと。

あと、なぜ「真田」小僧なのか、というワンポイント解説も。講釈の真田三代記が後半に出てくる。だけど、二弾ロケットみたいな噺で、前半で切る人も多い。持ち時間の関係もあるだろうけど。一之輔師匠は「後半をうまくできると気持ちがいい。時間があるなら、演った方がいい」。

「船徳」(2019年9月16日放送)

世間知らずの若旦那が船頭になる噺。東出さんは季節感や船遊びの風情が出ていて好きだとか。夏を感じるなら、この噺とも。暑さもそうだし、涼しさもある。一之輔師匠が四万六千日のところで、「人間の安倍川ができそう」という表現が好きだと。

先代文楽の十八番だが、番組では志ん朝師匠の78年の高座、瀧川鯉昇師匠(当時は春風亭)の95年の高座を流した。志ん朝も素晴らしいが、鯉昇師匠の“すっとぼけた感じ”(小痴楽談)が絶妙。若旦那のバカさが愛おしくなる。若旦那は皆で何とかしてあげなくちゃいけないというキャラクター。一之輔師匠は「ゆるキャラ」と呼んで、わがままだけど許しちゃうと。

所作が大事な噺。扇子一本で竿や櫓を表現する。一之輔師匠はシーズン最初に演じた翌日は筋肉痛になるそう。志ん朝師匠の高座の「竿、流しちゃった」とか、「ここは三遍廻ることになっている」とか、実に可笑しい。東出さんの大先輩が勉強のために楽屋の袖から志ん朝師匠の「船徳」を観ていて、終わって戻ってきた汗だくの師匠が一言、「これで酒が抜けた」と言ったそう。

2011年の春風亭小柳枝師匠の櫓で漕ぐ仕草の部分の高座が流れた。小柳枝師匠はそのために特別に作った扇子を持っているそうだ。だから、ギーギーという櫓で漕ぐ音が強調される。まさに秘技である。

それと、出演者全員が「大好き」という部分があって、それは親方に呼び出しがかかって、船頭たちがきっと小言だろうと思って、先に謝っちゃう場面。新造舟の舳先を欠いて荒縄でぐるぐる巻きの件、坊主(軍鶏料理店)で他の客と喧嘩して店の皿を割っちゃった件。ストーリーとは特段関係ないので、時間がないときは割愛されてしまうが、「必要ないからこそ必要」と一之輔師匠。若旦那がどんな人たちに愛されていたのか、取り巻く周囲の人たちを描くことで、そこに人間関係が見えてくると。御意。

「時そば」(2019年9月23日放送)

落語=そばを食べる、と言っても過言ではないくらい、江戸落語の代名詞。噺を知らなくても、そばを手繰るところは見たことがあるのではないか。それほどに有名な噺。でも、そばを手繰る仕草のある噺って他にあったっけ?となり、「そば清」・・・うどんだけど「うどんや」?でも、落語家はしょっちゅうそばを食べていると思われている、と。

勘定をごまかそうとして失敗するというのは、誰もが知っているオチなんだけど、そんなのは関係ない。オチは「噺が終わりましたよ」という合図にすぎないわけで、何度聴いても笑えることが大事と一之輔師匠。

東出さんは「やっぱり(五代目)小さん」ということで、75年の高座が流れ、やっぱり絶品だった。次に、鯉昇師匠の96年の高座が流れ、これが面白い!仕草のディフォルメがいい。手繰るところ、器の大きさ、大袈裟なんだけど、それがリアリティを持つ。小さんの教えで「そばは3回以上たぐるな」。あと、箸を動かさず、丼を動かすのがポイントだと。

東出さんが喬太郎師匠の「時そば」のマクラで演じる「コロッケそば」を観ると、そばが食べたくなると。2008年の高座の映像が流れたのも面白かった。

真似をすると失敗する男で笑わせる。2017年の花緑師匠の「(汁が)苦い!」「(麺が)ベチョベチョ!」という場面の高座が流れた。オウム返し。「道灌」「子ほめ」といった前座噺の基本からしてそう。2回目で失敗する。一之輔師匠は、演っていくごとに入れ事を入れたくなって、入れすぎて受けなくなって、また整理をして、受けるようになったと。不味いのに繁盛している二軒目のそば屋は「実は法的に罰せられる物質が入っていて癖になり、常連客が多い」という設定。一之輔ブラック版もまた面白い。

最後にこの噺は上方の「時うどん」が明治時代に東京に移植されたものと解説入り、88年の枝雀師匠の高座が流れたが、爆笑だった。東京では、そばを食べる技術が要るので、二ツ目は師匠方に遠慮して控えることが多いネタ。だけど、上方落語は笑いの多いネタなので前座が積極的にかけるとも。

最後に、一之輔師匠が「落語家が全員、そばを食うのが上手いと思ったら、大間違いだぞ!」とおっしゃっていたのが印象的だった。