一龍斎貞寿「お富与三郎」から「稲荷堀」与三郎はお富とともにどんどんと悪の道に入っていく。続きがますます聴きたくなる!

らくごカフェで「一龍斎貞寿の会」を観ました。(2021・02・13)

「お富与三郎」の連続読み、去年12月のこの会で「玄冶店」を聴いた後、先月にその続きの「与三郎悪事はじめ」を上野広小路亭で聴き、どんどん講談の続きモノの魔力に引き寄せられていった。この日はその続き「稲荷堀」(とうかんぼり)を聴いて、ますます無垢な若旦那だった与三郎が悪の道に入りこんでいく様子にゾクゾクした。

お富が湯に行っている間に、お富の色香に惑わされている藤八が訪ねる。与三郎は戸棚に隠れ、藤八は間夫を気取って留守居をするつもりで座布団に座った。そこに目玉の富が小遣いをお富与三郎にせびりにきた・・・間夫のつもりの藤八にお富与三郎の氏素性をあることないこと含め藤八に喋って、5両をせしめ、「旦那は金づる、何をされるかわからない、手を引いた方がいいですぜ」と忠告。その一部始終を戸棚で聞いていた与三郎は・・・。というのが、「与三郎悪事はじめ」だったが、まだ犯罪じみた“悪事”はしていなかった。が、次の「稲荷堀」で大変な悪事をしでかすことになる。

5両欲しさにお富と与三郎の仲を話した目玉の富も、恐れをなした藤八も帰ってしまった後、戸棚から出てきた与三郎。ちょうどそのタイミングでお富も湯から帰ってきたが、与三郎が台所から出刃包丁を持って、「あいつ、ただおかねえ!」と物凄い剣幕で家を飛び出そうとしている。お富は引き留めるが、与三郎は聞く耳を持たず、傘も差さずに雨の中、目玉の富の後を追いかける。

追いついたのは稲荷堀。「よくも俺たちの暮らし向きを脅かす真似をしてくれたな。生かしちゃおけない。命はもらった」と、目玉の富に飛び掛かる与三郎。だが、与三郎が所詮若旦那。喧嘩もしたこともないし、非力である。逆に目玉の富の方が与三郎に馬乗りになって俄然優勢だ。喉元を掴んで、締め付ける。万事休すかと思いきや、目玉の富に少々の気の緩みがあった。窮鼠猫を嚙む。与三郎はその隙をついて、出刃包丁で脇腹を刺した。苦しむ目玉の富。その姿を横目に与三郎は玄冶店へと戻った。

改めて、お富にすべてを話す与三郎。与三郎は人を刺したことで気が動転しているが、お富は冷静だ。「それで、トドメはしたのかい?」「トドメ?」「息の根を止めなかったら、誰かに助けられてしまうかもしれないだろう・・・出刃はどうした?」「刺したままだ」「バカだね。あの庖丁には柄に紋が焼いてあるんだ。一遍にばれてしまうだろ。もう一回、稲荷堀に行って、トドメを刺して、出刃を持ってきなよ」「いやだよ。恐いよ」。一人で現場に行けない与三郎とは対照的に、お富は肚が座っている。一緒に稲荷堀までついていってやることにした。

幸い、目玉の富はそこにいて、誰にも見つかっていないようだ。虫の息。ここはトドメを刺さなきゃいけないが、与三郎はガタガタ震えて、実行できない。お富が「しょうがないねえ」と言わんばかりに、一気に目玉の富の喉元に出刃包丁を突き刺し、事切れた。死骸は幸い、雨で血が流されている。与三郎は抜け目なく、目玉の富の懐から5両を抜き取り、死骸を川へ投げ棄てた。これで見つかることもないだろう。

二人は殺害現場に背を向けて、傘を差して足早に去る。しばらくすると、後ろから「与三郎さんよ」と声がする。誰だ?と振り返ると、蝙蝠安だった。「すべて見ていたよ」。なんでも、目玉の富と二人で内藤様の屋敷で博奕をするために、稲荷堀で待ち合わせをしていたのだという。すべて見られたのなら仕方ない。「あっしの願いを聞いてくれませんかねえ」。口封じのために蝙蝠安が出した条件は、楽隠居。美味しい酒が飲めて、肴が食えて、安らかに眠れる家があって、たまに博奕場で遊びができる、そういう暮らしを保証してくれという。

仕方がない。お富と与三郎は条件を飲む。お富いわく「こういう人を味方につけておくと、後々、役に立つかもしれない」。お富の計算高さも悪党の匂いがする。では、これから玄冶店に帰って温まりましょう、一杯やりましょうと3人で戻るところで読み終わり。さあ、この後、お富と与三郎は蝙蝠安とともにどんな悪事を重ねていくのか。ますます楽しみである。