一龍斎貞寿「お富与三郎」から「与三郎悪事はじめ」どんどん面白くなっていく、お富と与三郎を中心に展開する愛憎劇

上野広小路亭で「新鋭女流花便り寄席」を観ました。(2021・01・29)

一龍斎貞寿先生の「お富与三郎」が良かった。去年12月にらくごカフェでの「貞寿の会」で「玄冶店」を聴いて、その後がどうなるか、とても気になっていたのだが、なんとその続きを読んでくれたので、とても嬉しかった。12月では死んだはずのお富と与三郎が運命の再会を果たし、お富を囲っている井筒屋の番頭が出てきたところで終わったのだが、その後の展開も実に興味深かった。

一龍斎貞寿「お富与三郎」から「与三郎悪事はじめ」

井筒屋の番頭、多左衛門は実に物分かりのいい、腹の大きな人物だ。お富と与三郎の二人の一部始終を訊いて、驚くとともに喜んでくれる。「(お富の)世話をしてきた私がこのままにしておくわけにはいかない。私は仮の亭主ですから、お富とは縁を切ります。差し上げます」。そして、与三郎さんは伊豆屋の若旦那なのだから親孝行に精をだしなさい、と励ます。「仲良く暮らすんですよ」と、祝い金30両を渡して、去っていく。なかなかできないことだ。

これで伊豆屋に二人で戻って、商売に精を出し、親孝行するればいいものを…と思うのだが、そうはならないのが講談だ。30両もあるのをいいことに、居続けしてしまう。となると、伊豆屋の両親が心配する。祭に行ったきり、息子の与三郎が帰ってこない。風の噂によれば、あんな目に(傷だらけに)遭わされた原因の女の家にいるらしい。これには父親の伊豆屋儀兵衛が黙っちゃいない。呆れた。甘やかしすぎた。暖簾に傷がつく。荒療治で「勘当」にして、しばらく様子を見ることとなる。でも、そこは世間体ゆえの「勘当」である。書状に100両をつけての「勘当」。与三郎とお富はずっと傍にいることを誓い合う。

井筒屋の30両に伊豆屋の100両でしばらくは安穏と暮らしていた二人だが、やがて金は底をつく。だが、一所懸命働くことを考えないのが甘やかされて育った若旦那と元芸者。何か楽して金儲けはないか。そこに「玄冶店再会」に一枚噛んでいたならず者の二人組、目玉の富と蝙蝠の安から「いい話」が持ち掛けられる。人間というのは、楽して儲ける話に弱いんだなあ。

旦那衆の慰み事の場として、この玄冶店の家を貸すという話。要は博奕の場として貸すと、5両、10両と小遣いが入ってきますぜ、と。最初は3、4日に1日くらいのペースだったのが、いつしか毎夜博奕をする旦那衆が出入りすることになる。

その出入りをする中に、奥州屋の旦那で藤八という男がいた。男っぷりは良くないが、金払いはいい。その男がお富に目をつけた。岡惚れである。お富も金になるから、手練手管で貢がせる。与三郎もそういうことならよかろうと認める。あんなに惚れ合った仲なのに、金になることは割り切るというのが、この二人の弱点だなあ。まあ、だからこの読み物が面白いのだけれど。

でも、悪いことはできない。朝から雨の日。お富は湯に行き、与三郎が留守電をしていた。そこへお富目当てに藤八が訪ねる。与三郎は「まずい」と思い、戸棚に隠れる。藤八はお富は湯にでも行ったのだろう、留守とは物騒だな、と思いながら座敷に上がり、待つ。そこへやってきたのは、目玉の富。藤八がスケベ心でやってきたことを見抜き、「スケベですな」と声をかける。「でも、ひっかかれないうちに、トンずらしたほうがいいですぜ」と言う。

「悪いことは言わない。すっぱりと手を引いた方がいい。とても手におえる相手じゃない」と言う目玉の富に、藤八は何か事情があるのだろうと知りたくなる。目玉の富は「願いをきいてくれたなら、話をする」と言って、5両を藤八からもらい、お富と与三郎のことを木更津の時のことから一部始終、話してしまう!戸棚には与三郎がいる。この後、一体どんなことが!?で読み終わり。

波瀾万丈の「お富与三郎」、どんどん面白くなっていく!!