【柳家三三 あのときの高座】①「鼠小僧 蜆売り」(2008年12月27日)

きょうから3日間、柳家三三師匠の過去の高座をプレイバックしようと思います。きょうは2008年12月27日に有楽町よみうりホールで開かれた「三人集」での、三三師匠の高座「蜆売り」について、当時の日記からです。

僕は、前回(07年)の三人集には行けなかったので、今回が特別だったのかもしれないが、三三師匠に長講をたっぷりと演じてもらい、市馬師匠と談春師匠はいわば太刀持ちと露払いを勤める格好。まさに、三人の中で一番の若手を鍛えるという形の落語会となった。で、実際、三三師匠は見事に期待に応えてくれた。と、僕は思った。

聴かせる噺をじっくりと聴かせる、そのストーリーテラーとしての能力は卓越していると僕は思う。だから、他の噺家が手をつけない長講、特に人情噺を演ると、僕はそれだけで、感心してしまう。だが、他の人に言わせると、その噺に説得力がないのだと言う。その噺に対する了見がまだ見えてこない、ということなのだろうか。僕もそのあたりのことは、少し理解できる。だけれども、これまで志の輔師匠でしか聴いたことのなかった「蜆売り」を、(上)と(下)に分けて、“志の輔らくご”から先のストーリーまでじっくりと聴かせて、僕の心を離さなかったことは確かなことなのだ。それで、いい。それで、いいのだ。僕は09年も三三師匠の挑戦を追い続ける。

柳家三三「鼠小僧 蜆売り(上)」
茅場町で和泉屋という魚屋の主人、和泉屋次郎吉。魚屋は世を忍ぶ仮の姿で、実は博打打ち。さらに、それも仮の姿で、この男こそ、天下の大泥棒、鼠小僧次郎吉であったと最初から種明かしをする演出だ。

その次郎吉が細川様の屋敷で三日三晩博打を打ち続け、300両という金をすっかり取られてしまった帰り道、筑波おろしが吹き抜け、雪が降る寒い中、舟で家まで帰ろうと汐留の伊豆屋という船宿に寄る。舟に乗る前に、座敷で雪見酒をチビチビやっているところに、蜆売りの小僧がやって来る。「こんにちは。残っている蜆、32文分あるんですけど、24文に負けますので、全部買ってください」。邪険にする船頭の竹に対し、親分肌の次郎吉は「買ってやろう。そして、その蜆は前の川に流しておやり」と優しく接する。そして、火鉢にあたらせてやり、しもやけのできた手と足を見て、次郎吉が事情を聞く。

「寒い中、蜆を売り歩くなんて、感心だな。小遣いでも稼ぐのか?」「アタイが稼がないと、家に人間の干物が2枚出来ちゃうんです」。家には按配が悪いおっかさんと、災難にあって、心配のし過ぎでブラブラ病になった姉が待っている、と話す。「災難にあった?何かあったのか?」「せっかくのお酒が、湿っぽい話でまずくなりますよ」「いいから、話してみな。俺は湿っぽい話を聞きながら酒を飲むのが好きなんだ」。

そして、小僧は打ち明け話をはじめた。姉は3年前には、新橋の紀伊国屋という店で小春という名前で芸者をしていた。色を買うんじゃない、芸を買うんだと客に評判の芸者だった。やがて、小春に「いい仲」の人ができた。松本屋の若旦那で庄之助さん。だが、若旦那は小春に夢中になりすぎて、親に勘当されてしまった。すると、小春の面倒を見ていた人たちは誰も振り向かなくなってしまった。仕方なく、庄之助と小春は旅に出る。庄之助が碁を教え、小春は芸者として働いた。

箱根の亀屋という宿で働いていた時のこと。碁の相手をしていた男が、賭けて勝負しようと言い出した。小さな勝負は庄之助が勝つが、大きな勝負になると、その男が勝つ。とうとう、庄之助は50両を巻き上げられてしまった。さぁ、50両を払え!と凄まれて、困っているところに、隣の部屋から用立てをしましょうと名乗る男が現れた。ところが、安心したのも束の間、翌日になると、その男が「昨日の50両を返せ。返せないならば、借金のカタに小春を連れて行く」と脅しにかかる。二人の男はグルだった。

そこに、博打打ちの親分という親切な人が現れ、50両を金貸しの男に渡して、窮地を救ってくれた。そして、仲直りに一杯やり、博打を打つことに。親分は向こうの二人組をすっかりやっつけてしまい、追い出した。親分は庄之助と小春に50両を「これで上方見物でもしろ」と渡してくれた。駿府に泊まった二人は、宿賃をその50両から払おうとすると、そこに役人が現れた。この小判にはトの字の刻印がしてある、盗まれた金だ、誰に貰ったと問い詰められた庄之助は「拾った金でございます」と、けして口を割らなかった。

二人は江戸に戻され、庄之助は牢獄に入れられ、小春は落ち込んで寝たきりに。母まで病にかかり、「それで、アタイが蜆を売って歩いているんです」。姉が癪で苦しんでいる時、母が「薬屋で熊の胆を買ってきておくれ」と言われ、薬屋に頼んだが、「貧乏人は生きていても仕方がない。死んだ方が楽だろう」と言われた時は、「よっぽど、盗んでやろうと思った」。でも、我慢して姉の背中をさすっていた。

ここまで聞いた親分は「ここに5両ある。持っていきな」「ありがとうございます。でも、いりません。知らない人から金を貰ってはいけない、どんな災難にあうかわからないから、と言われていますので」「清い金だ。大丈夫だ。持っていきな」。さらに、料理を食え、と言うと「お姉ちゃんやおっかさんに食わしてやりたい。これ、家に持っていっていいですか?」。料理を折りに詰めて、渡してやり、次郎吉は小僧に言う。「姉さんにそう言ってくれ。こういう話は巡り巡って人の耳に入る。人様に50両恵んでやろうと思った、盗人の気持ちも考えてやってくれ。二人はきっと、明るい身体になる。また来る春を待っているように、とな」。

そして、次郎吉は舟に乗って帰宅し、一人で考え込んだ。思い返せば、3年前。いかさま碁に引っかかった男にめぐんでやった金に刻印がついていたとは。二人には迷惑をかけちまったな。金をめぐんだのは私でございますと、名乗ってやれば、二人は明るい身体になる。でも、もう2、3年、時間がほしい。思いはふたつ。身体はひとつ。そう悩んでいる次郎吉の元に、「親分、あっしでござんす!」と訪ねるものが・・・。この男が誰なのかは後ほど。ということで、(下)へと繋いだ。淡々とした語り口で展開するストーリーに引き込まれ、次の展開に興味を持たせる巧みさが光る高座だった。

柳家三三「鼠小僧 蜆売り(下)」
次郎吉宅を訪ねてきたのは、野晒しの熊蔵と呼ばれる男。「お久しぶりです」と熊蔵。博打場で使い走りをして、「度胸熊」と呼ばれていた男だ。盗人を重ねて、ついにお縄になったが、縄抜けをして逃げてきたという。一目でいいから、十条村の両親に別れを告げて、それから今大岡と呼ばれる筒井伊賀守様に名乗り出る覚悟だという。

次郎吉は、ここでハタと思いついた。熊蔵に自分の身代わりになってもらおう、と。そして、熊蔵が十条村の両親のところまで高飛びする金として50両を渡し、「折り入って頼みがある」と申し出た。3年前の箱根で庄之助と小春の二人に刻印のついた50両をめぐんでやったばっかりに、彼らを犯罪者にしてしまい、不幸にしてしまった。宿で金をめぐんだのは私です、と名乗って、若い二人を明るい身体に戻れるようにしてやってほしい、と。

「しかし、二人は親分の顔を覚えているでしょう。お白洲に出たときに、彼らが何と言うか・・・」「親分衆の風上にも置けないが、泣く子も黙る、大名金を狙い奪う鼠小僧次郎吉とは俺のことだ」「わかりました。あっしも鷺を烏と言いくるめる度胸熊。任せてください。草葉の陰から悪運長久をお祈り申し上げております」。

熊蔵は十条村の両親に別れを告げ、筒井伊賀守の奉行所に自首をする。「新場の河岸で縄抜けしたのは、この熊蔵だ」。「神妙にしろー」と取り押さえられた熊蔵は叫ぶ。「名奉行?無実の男を三年も牢に繋ぎおいているそうじゃないか!」。「いかなることぞ?」と反応したお奉行様は事情を聞きだす。「湯治場の亀屋で庄之助にめぐんだのは、熊蔵が盗み出した刻印のついた50両だった。この罪状、誤りはないか?」。認める熊蔵。

すると、お白洲に見慣れない男と女が座っている。「松本屋庄之助、この熊蔵に見覚えはあるか?」。「どなたでございましょう?」と庄之助。熊蔵はここぞとばかりに芝居を打つ。「久しぶり!俺だ、俺だ!熊だよ!忘れちまったのか?亀屋でめぐんだのは俺じゃないか」。庄之助も正直に答える。「50両を拾ったというのは嘘でございます。めぐんでもらったのは本当です。でも、この人ではない。もっと背の高い、いい男でした」。筒井伊賀守。「控え、控え。双方とも黙れ。熊蔵がめぐんでやったに、相違ないな。正直に言わないとだめだ」で、庄之助はようやく無罪放免となる。そして、熊蔵に向かって言う。「その方、誰かに頼まれたな?その名はけして言わないな。ならば、聞かない。だが、必ず調べをつける。真実を究明いたす」。「確かに頼まれた。しかし、黙ったまま、あっしはあの世へ行く」と、熊蔵は市中引き回しの上、火あぶりの刑で処せられた。

後日、次郎吉は熊蔵の墓参りに行く。「和泉屋の親分、これは誰の墓なんですか?」と竹。「お前にも、ちっとは関わりあいもある人だ」と次郎吉。そして、つぶやく。「熊、ありがとうよ。これで、2、3年は娑婆で持つ。でも、俺もいつか、地獄へ行く。その時は案内を頼むよ」。さらに続ける。「偉かったな。蜆と違って、火にかけられても、口を割ることはなかった」で、サゲ。講釈ネタからの移植の噺らしいが、三三師匠のグイグイと噺に聴く者を引きずり込んでいく力を感じた、素敵な高座だった。