三遊亭兼好「二番煎じ」 冬のワイワイガヤガヤの噺で、心までもが温まる
日本橋公会堂で「兼好集」を観ました。(2021・01・22)
「夢金」と「二番煎じ」の二席。三遊亭兼好師匠が冬の噺を揃えてくれた。「二番煎じ」は「寄合酒」「長屋の花見」「黄金の大黒」のようなワイワイガヤガヤ系に属すると思うが、冬限定なのが嬉しい。兼好師匠の場合は、火の用心で夜廻りする部分と、番小屋に帰って猪鍋を囲む部分の両方ともにワイワイガヤガヤの愉しさがたっぷりあるので、「これだよねえ、二番煎じは」と思わせてくれる素敵な高座だった。
一の組は、月番さん、黒川の先生、鳶頭、近江屋さん、宗助さんの5人。この5人をきちんと描き分けているからすごい。月番さんと近江屋さんは幼なじみらしく、おねしょばかりしていたとかいう弱みをお互いに掴んでいて牽制しあう楽しさもいい。黒川の先生は普段は火の用心グループにいなかったのだが、娘婿が風邪をひいてのピンチヒッターというディテールが後から効いてくる。
外廻りの冬の寒さ、とりわけ風の冷たさがよく表現されている。宗助さんだけ笠をかぶっているのは風よけなのか、と月番さんが言うのに合点がいくが、実は…。黒川先生は柝を懐にしまってコツンコツコツ、近江屋さんは鳴子を足に括りつけてバサバサ、鳶頭は金棒を帯からぶら下げてヅルヅル、カタン、パシャン!寒さが伝わってくる。
兼好師匠が芸達者だなあ、と思うのは火の用心の声。宗助さんが売り声で「出来立ての火の用心」とやれば、黒川先生は謡で「この辺りは火の用心にて候」、近江屋さんは口三味線が入って♪火の用心火の廻り、柝までも嘘をつくぅ~。若い時分に吉原で居候をしていた鳶頭はさすが。「ちょいと火の用心!こっちへ来ておくれ」と煙管の雨が降るようだあ、と「この声で随分と女を泣かせた」というだけのことはある喉を聞かせた。
番小屋に戻ってきてからの愉しさも負けていない。瓢に酒を持ってきた初心者の黒川先生に「土瓶に入っている煎じ薬ならいいんですよ」と脅かし、慣れた宗助さんは猪の肉に味噌と葱を持ってきただけでなく、頭に鍋を乗せてきた。あ!それで笠をかぶっていたんですね!(笑)。
一つしかない湯呑で酒を廻し飲みすると皆機嫌よくなる。これに美味の猪の肉が加われば申し分ない。黒川先生が「上州に猟師がおって、撃った猪を鍋にして食べたら、娘が三歳になったときに牙が生えてきた…」という怪談噺まで飛び出す騒ぎ。「下手にお茶屋で飲むより愉しいですなあ」と、謡、木遣り、端唄、と皆が喉を披露したくなるのも無理はない。近江屋さんの都々逸が良かった。♪あたしゃあなたに火事場の纏さ、振られながらも熱くなるぅ~。
見廻りの役人がやってくると、尋問に対して「宗助さんが…」とする件。鍋は座り込むのではなくて、後ろに隠すだけにしたのは、綺麗ごとで良かった。汁を吸ってしまうのは褌じゃなくて、綿入れの半纏。冒頭で、寒い冬には綿入れの半纏が良いとやりとりがあったが、ここで効いてくるとはあっぱれ。
冬本番。「二番煎じ」を聴いて、心の中が温まるのも良いものだと思った。