【玉川奈々福 赤穂義士外伝】大勢につかず、反体制を貫く。建前を嫌い、本音で生きる。そこにも美学があるのではないか。

渋谷ユーロライブで「ぜーんぶ自作♡新作フェス#3 赤穂義士外伝、を作ったのォ???」を観ました。(2020・12・25)

玉川奈々福先生の新作への意欲がすごい。もちろん、古典も大事にしているのだけれど、今、勢いにのっている時期に「新作」で幅広い浪曲ファンを増やしていきたいという思いが熱く伝わってくる。もちろん、「浪花節25周年記念企画」ではあるけれど、「浪曲、きてるネ!」という今がチャンスと、名プロデューサー・玉川奈々福は考えているに違いない。25日に発表になった芸術祭受賞者、大衆芸能部門で大賞を上方浪曲のトップである京山幸枝若先生が、新人賞を澤雪絵さんが受賞したことからも、「今、浪曲に勢いがある」ことは明らかだ。

で、12月。赤穂義士伝の季節である。この日、奈々福先生が披露した自作の外伝は、比較的新しい作品だ。「研辰の討たれ」は去年12月「ひとり忠臣蔵」@紀伊國屋ホール、「噂話屋の婆のはなし」は今年1月「喬太郎アニさんをうならせたい」@紀尾井ホールで、それぞれ聴いている。あれから1年足らず、コロナ禍があったとはいえ、奈々福チャンネル始動や弟子の初舞台など忙しい日々の中、きちんと初演よりもクオリティーの高いものに仕上げてきたことに拍手を送りたい。

「ババア・ザ・フェイクニュース・メーカー」(「噂話屋の婆のはなし」改題)

ご時世を鑑みての改題だそうだ。討ち入りを秘密裡に運ぼうと企てる大石内蔵助vs庶民の目を討ち入り待望に集中させて政治批判をさせない柳沢吉保という構図にした奈々福さんの視点が鋭い。瓦版は本来、非合法なものだが、幕府に有利に働く噂が広まるなら目を瞑ろうという柳沢の目論見が透けて見える。

古本屋とは世を忍ぶ仮の姿で、実は瓦版の情報を集めて大儲けしているお兼婆の存在。そこへ情報提供にくる飛脚たち。いわば噂話の元締めであるお兼婆は、相場をも動かす世間の闇の存在というのが面白い。

そこに「仇討評論家」を名乗る弥助が現れ、「大石は東下りなどしていない。祇園で豪遊している」と、一力茶屋の偽の明細書まで見せるのも作戦のうち。実は弥助は大石内蔵助だった!という。

さらに「松の廊下」の真相は、浅野内匠頭が老け専のカマで、美男子の吉良上野之介との痴情のもつれでおこった…というまことしやかな情報まで流し、「討ち入り待望論」を消そうとする弥助こと大石の用意周到も。

お兼婆の抜け目なさは、討ち入り本懐を遂げてからも発揮される。「安兵衛婿入り」や「岡野金右衛門の絵図面」などのネタを「芝居のネタになる」と成田屋・團十郎に売りつけるとは!どこまでも強欲なお兼婆のしたり顔が見えてくるようだ。

「研辰の討たれ」(作/木村綿花・脚色/平田兼三郎・脚本/野田秀樹)

十八世勘三郎丈の歌舞伎座の襲名披露でこの野田版の演目がかかったときから、「これは浪曲になる!」と考えていたそうだ。もちろん、野田秀樹サイドには口演のたびに許可をとっている。

ここに流れる一貫したテーマは「アンチ仇討、アンチ義士」。建前じゃなくて、本音で生きる男、守山辰次の生き方に共感しませんか?という話である。彼に言わせれば、浅野内匠頭は馬鹿だ。近江の国、粟津藩で「武士と言えども潔い死を望まない武士もいるだろう」と人目をはばからずに悪口雑言。うーん!僕は組織のなかではいつも反体制の人間だったから、ものすごく共感しちゃう。

剣術の達人、家老・平井市郎右衛門に散々に打ちのめされ、「今に見てろ。桜花侍め」と、仕返しに落とし穴作戦を決行しちゃう。可愛いじゃん。だけど、まさか家老がそれで脳卒中で即死しちゃうなんて思ってもみなかったろうけどね。

さあ、息子の兄弟は「父の敵!」と辰次を探し、仇討を狙う。辰次は逃げるしかない。逃げろや、逃げろ。だけど、運命の道後温泉。面白いのは、辰次も「親の仇討のために旅をしている」と嘘をつくところ。宿屋一同、仇討応援隊。黒川甚兵衛は娘を嫁にと言い出し、娘も「守山さま~」とキラキラした目で惚れこむ。

そこへ同じ宿に平井兄弟が泊まって、辰次と出っくわすとは!これ、どういうこと?と戸惑う宿屋関係者。命が惜しい。死にたくない。逃げろ~!と、辰次。仇討の美学を振りかざす平井兄弟。野次馬は両者の対決を待ち望んでいる。群集心理って、おそろしい。皆、仇討が好きなんだあ。

最期は平井兄弟に斬られてしまう辰次だけれど、辰次は町人だよねえ、そんな侍の美学とか関係ないんですけど、命は惜しいよお、と僕は思う。僕もアンチ仇討、アンチ義士かもしれません。赤穂義士伝は大好きで、それぞれの義士に心酔するけれど、「やっぱり浅野様のために命は捧げられない」と思った人は多いわけで、僕もその立場だったら、逃げて、四十七士には加わらなかったと思う。そんなことまで考えてしまう、新作浪曲。だけど、堅苦しくなく、コミカルに演じている奈々福さんに拍手喝采!