【うなる!語る!ソウルフル!玉川奈々福のほとばしる浪花節】後に続く期待の若手たち 浪曲界は面白くなる!(下)

YouTube「奈々福チャンネル」で「うなる!語る!ソウルフル!玉川奈々福のほとばしる浪花節」vol.8~11を観ました。

奈々福さんはこの「奈々福チャンネル」を長期的展望で見ている。もちろん、配信番組をナマで観てもらいたい!という気持ちも強く、チャットに対する反応にも答えているが、この番組を無期限的にアーカイブとして残して、さまざまな人たちに浪曲を知ってもらい、個々の浪曲師の魅力を知ってもらい、最終的には木馬亭に足を運ぶような浪曲ファンを増やしていきたいと考えている。

いや、それだけではなく、病気などで外出できない方、地方にいてなかなかナマの浪曲に触れることのできない方にも浪曲を好きになってもらいたいと考えている。だから、この若手紹介シリーズのあとは、ベテランの師匠方にもご出演いただき、配信していく計画もあるそうだ。

なんとも心強いプロデューサーではないか。人気浪曲師として古典、新作縦横無尽に活躍し、後進の指導のために曲師を買って出て、浪曲映画祭をはじめとするイベントも企画する。それは全てにおいてプロフェショナルである玉川奈々福だからこそ、できることである。ブームの兆しが見えてきた浪曲をさらに盛り上げるためにも、健康には十分留意していただくのはもちろんだが、獅子奮迅の活躍を陰ながら応援していきたいと思うのである。

Vol.8 木村勝千代「慶安太平記 宇都谷峠」

彼女も少女浪曲で活躍した実力派である。大学卒業後に一旦浪曲を離れたが、復帰して7年になる。派手な関西節に比べると、関東節は地味なきらいがあるが、サッパリとした粋な魅力がある。その関東節を代表するのが木村派で、昔は「パンと浪曲は木村に限る」とまで言われたそうな。女性には向かないと言われていたが、彼女は木村松太郎師匠の元で修行を積んで、しっかりと木村の関東節を受け継いでいる。奈々福さんの玉川も関東節なので、この日はお互いの流派の十八番対決ということで、木村の慶安太平記VS玉川の天保水滸伝。慶安太平記は神田派の講談で馴染んでいたが、浪曲ではまた違った味わい。前半の善達と謎の男(実はゴマの蠅)との駈け比べが「東海道ロードムーヴィー」のように楽しく、後半は紀州の金飛脚から3千両を奪う計画を、善達とその男が丁々発止かけひきするところをシリアスに聴かせた。

Vol.9 澤雪絵「たけくらべ」(樋口一葉原作)

この人は前から、いい!と思っていたんだが、やっぱりいい!どんどん、師匠・澤孝子に似てきているのがいい!インタビューでは、声そのものをまねるのではなく、声の波形をまねるのだそうだ。だから、完全コピーではない、独自の「澤雪絵」の浪曲が生まれているのだね。演目も師匠が創作した樋口一葉原作作品。吉原に暮らす思春期の子どもたちのやりとりがなんとも瑞々しい。主人公・美登利をめぐる長吉と信如と三五郎と正太郎。人はなぜ大人になるんだろう、というフレーズに思わずきゅんとなった。そして、せつない。今年は小規模のおこなわれたという酉の市の場面も出てきて、下町風情がまた良かった。

Vol.10 港家小そめ「宮様の自転車」

浪曲の道に入って7年。ちんどん屋を兼業している変わり種。亡くなった師匠・小柳先生が創作した作品を奈々福さんのリクエストでうなった。幼い殿下が転びながら自転車の練習をしているのを見て、何も知らない松本青年が指導してあげる。名前を尋ねられ、「宮家…」と言ったのを聞いて、「三宅くん」と呼んで、分け隔てなく友達付き合いした松本青年に、殿下は惹かれたのがいい。松本くんの家に誘われ遊びに行くと、土産に買った今川焼を仏前に供え、「父は台湾で名誉の戦死をしたんだ」という告白に、「三宅くん」はハッとする。そして明治天皇陛下の刻印のある懐中時計を贈り親友となり、自宅へ松本母子を招く屈託のなさ。身分を超えた友情に胸が熱くなった。小そめさんは、節のときに音程が不安定に感じるときがある。これからの課題だろうか。

Vol.11 富士実子「花の若武者 那須の与一」

日本浪曲協会会長・東家三楽(入門当時は富士路子)の一番弟子。落語の人情噺が好きだったが、浪曲の方がより人情モノが多いと思い、この世界へ入ったそうだ。人情噺でも、変にお涙頂戴にならぬよう、気をつけているとか。大切なことですね。講談「扇の的」では勇んで名乗りを上げる形だが、この浪曲では義経の命にたじろき、拒むが、最終的に受け、弓を射る。確かに、扇の要に射るというのは無理難題で、リアリティーがある。また、「母の声を力にした」というのが特徴かも。これで勇気が湧き、与一は頑張れたかもしれぬ。発声で、低い部分と高い部分の落差に違和感がある。男性を演じるときに、声を作っている。だから、全体がオペラっぽいというか、宝塚っぽいというか。これを良しとしているのなら杞憂に過ぎないが。僕自身は違和感を覚えた。

奈々福さんの演題は、Vol.8「天保水滸伝 鹿島の棒祭り」Vol.9「梅ケ谷江戸日記」Vol.10「豊子と奈々福の浪花節更紗」Vol.11「浪花節更紗」