【うなる!語る!ソウルフル!玉川奈々福のほとばしる浪花節】後に続く期待の若手たち 浪曲界は面白くなる!(上)

YouTube「奈々福チャンネル」で「うなる!語る!ソウルフル!玉川奈々福のほとばしる浪花節」vol.4~7を観ました。

玉川奈々福は名プロデューサーである。出版社の編集者の時代から、その才能がほとばしっていたわけだが、それがほとばしりすぎて、曲師になり、浪曲師になってしまったのだから、これほど強いものはない。浪曲という大衆芸能がいま、こうして再び脚光を浴びているのも、奈々福さんの幅広い人脈と知識と発想力と尽力の賜物といっていいのではないでしょうか。

で、このコロナ禍での奈々福チャンネルの立ち上げである。落語界の動きが早かったが、それに遅れをとってはいけないと配信をはじめた。様々な手法があり、手間やお金のかけ方で月とすっぽんほどの品質の差が出るが、7月11日にvol.4ということでスタートさせた期待の若手浪曲師をゲストに呼ぶスタイルでほぼ定着したようである。(来年からは大御所、ベテランをゲストにお呼びする構想も練られていると聞いています)。

奈々福さんのすごいところは、海外の視聴者まで意識していることである。また、ブームの兆しはあるとはいえ、全国の「浪曲って何?」という人に啓蒙、浸透させるには、やはり「YouTubeの無料配信で」という思いを捨てていないことである。ほかの安価な有料配信に比べて、圧倒的に画質と音質が素晴らしいということも特筆すべきことで、落語や講談と違って、マイク一本あればいいというわけにいかない。曲師の三味線と浪曲師の声のバランスをミキシングしなければいけない。それも「サンパチ」と呼ばれる高音質マイクを使っている。

その上、5台のカメラのスイッチングを行なっている。テクニカルチームがめちゃくちゃ充実しているのだ。こりゃ、お金がかかる。投げ銭のシステムは導入してはいるが、それだけでは到底追いつかないのは明々白々である。私財を投げ打って、奈々福さんはこのYouTube配信に賭けている。浪曲の未来のために。応援してあげてください。

以下、vol.4~7で紹介された期待の若手と演目について。

vol.4 東家孝太郎「長兵衛の生い立ち」

ホーミーという中央アジアの音楽をはじめ多彩な才能のある孝太郎さんだが、「幡随院長兵衛」の連続モノを習得中だそうだ。その発端をうなってくれた。声も独特の個性があるので、もう少し丁寧に物語をうなった方が良いように感じた。かなり沢山の人物が出てきて、その名前がはっきり聞き取れないと、途中で思考が中断してしまうきらいがある。「幡随院」は、侠客モノ浪曲の代表である天保水滸伝や清水次郎長伝よりも、芝居では寧ろこちらの方がポピュラーなので、浪曲として聴くとまた面白いはずだし、孝太郎さんのような芸風には良く似合っているので、是非全編習得して、愉しませてほしいと思った。

vol.5 港家小ゆき「ベートーヴェン一代記 歓喜の歌」

クラシック、ロックを経て、邦楽に興味を持ち、浪曲に至ったという遍歴の持ち主らしく、それを活かした創作浪曲に力を入れているようだ。奈々福さんが「うなる!金髪」とタイトルをつけたように、見た目からもインパクトが大きいのは有利なことだ。ベートーヴェンの第九は誰もが知る交響曲だが、当時、そこに合唱を組み込むという発想は常識外れだったそうだ。音楽の世界からは非難されたベートーヴェンがいかにそれを克服し、「歓喜の歌」と呼ばれて、日本では年末の風物詩にまでなる有名な交響曲になったのか。そこをドラマチックに構成した創作に舌を巻いた。

vol.6 国本はる乃「出世の草鞋」

9歳で入門、初舞台というキャリアがもう高座にドーンと現れている。奈々福さんも羨ましいと言っていたが、舞台度胸や声量、節と啖呵のテクニックは同じ25歳の浪曲師に比べたら、圧倒的に上をいっていることは素人の僕が聴いてもわかる。奈々福さんは「性格の~びのび、声もの~びのび」と表現したが、まさしく。いやらしい巧さではないのがいい。聴いていて気持ち良いのは、浪曲の原点ではないか。伊勢屋に奉公にきた3人の中で、汚い草鞋を丹念に洗う吉松を見て、主人の五平は見込みがあると思った。だからこそ、わざと水汲みのような単純労働を吉松だけにやらせ、試した。その試練を6年間耐えた吉松を大番頭に抜擢し、末は後継者に指名する、い~いハナシを気持ちよく聴かせてくれた。

vol.7 真山隼人「俵星玄蕃」

奈々福さんいわく、40歳に見えるけど25歳の浪曲マニア。若いのに、SPレコード時代の浪曲師の真似ができちゃう!超マニアが浪曲師になったのだから、これはすごい。今の雲月先生の物真似も似てたあ!はる乃さん同様、落ち着きがある。この人が上方にいるだけで、関西の浪曲界の未来もパーッと明るく開ける。それでもって、曲師の沢村さくらさんに鍛えられているから、間違いなし!沢村豊子の一番弟子で、思いがあって上方に行かれたのだが、このコンビの浪曲を聴くためだったら、大阪に足を運んでもいい。槍の達人・俵星が赤穂浪士に見せた義侠を鮮やかに描いた。大石内蔵助との間に入った、蕎麦屋に身をやつした杉野九郎衛門の機転も見事だ。そういう人間模様を25歳にして、しっかりと描けることで、将来の浪曲界は明るく見えるのである。

vol.8~11はあすのブログで。奈々福さんの演目は以下の通り。

vol.4「浪曲シンデレラ」vol.5「仙台の鬼夫婦」vol.6「金魚夢幻」vol.7「甚五郎旅日記 掛川宿」