柳家三三「嶋鵆沖白浪より 怪僧玄若坊」 談洲楼燕枝の長編名作よ、もう一度!抜き読みもまた面白い。

横浜にぎわい座で「柳家三三 ハマの十番勝負」を観ました。(2020・10・05)

三三師匠が談洲楼燕枝作「嶋鵆沖白浪」全12話を演じたのが、2016年。このことについては、4月のブログで書いたが、そのうちの第4話を抜き読みで演るというので、おっとり刀で駆け付けた。玄若は三宅島で喜三郎や花鳥花魁ことお虎らとともに島抜けした5人のメンバーのうちの一人だ。この湯島根性院の性悪の納所坊主である玄若の三宅島以前の物語を独立させて一席にしたのが、この「怪僧玄若坊」だ。面白かった。

柳家三三「嶋鵆沖白浪より 怪僧玄若坊」

湯島にある寺、根性院の住職の善念は根っからのスケベ坊主。春木町の桜屋という茶店の一人娘、お花を気に入り、父親に話をつけて、毎晩のように寺に通わせる。このことを目敏く見つけたのが博奕打ちの三森安次郎。通称、三森の安。

小綺麗な着物を着て頭巾をかぶったお花が切通しの坂を下り、寺の生垣から中に入り、孟宗竹の竹藪をかいくぐって雨戸を叩く。中からは白い着物を着た坊さん。縁側で聞き耳を立てると、善念とお花の声が聞こえ、やがてその声がやんで、枕元に島田の髷と坊主頭が並ぶ様子が手にとるようにわかる。三森の安の子分、手塚の多吉が現場をしっかりと押さえ、強請りにかかる。

魚心あれば水心。善念は手文庫から小判10枚、10両を出す。もう一押しすれば、もっと出ると読んだ多吉は、100両を要求する。出る処に出たっていい、と脅す。「3日のうちになんとか」と答える善念。そこに、30半ばの坊主、玄若が「和尚さま!」と入ってくる。この寺の納所坊主である。「自業自得でございます。ここは私にお任せください」。

自分の部屋へ多吉を通し、「あなたの顔を潰さないようにします。お任せください。話をまとめましょう」。「100両出せ。ビタ一文欠けても出るところに出るからな」と凄む多吉に、「まぁ、敵の家に入っても口を湿らさずに帰るなと申します」と極めて冷静な玄若は囲炉裏にかかった鉄瓶からお茶を注ぎ、差し出す。「なぜ、100両なのですか?」「酒、生魚、女、と出家の身にあるまじきことをやりたい放題の和尚のことを内々に済ませてやるからだ」。

ここで頭の良い玄若は訊く。「出るところに出るというのは、どこに出るのですか?」「奉行所に決まっているじゃないか」「あなたのおっしゃる奉行は町奉行ですね。あなた様の世話にはなりません。寺は寺社奉行の管轄です。町奉行は2千から3千の旗本。それに比べて、寺社奉行は10万石の大大名です。こちらが知らぬ存ぜぬを貫いたら、話はそこまでになるでしょう。いや、むしろ、あなた様が忍び込んだ不審者として罰せられ、寄せ場送りで討ち首獄門、良くて島流しでしょう」。

理路整然と話す玄若は「100両なんて、とんでもない。ビタ一文、金は取れないとそう思え」。すると、多吉は「わかったよ。きょうのところは見逃す」。玄若は答える。「まるでわかっていないね。なぜ、出し良いように話をしない?」。豹変である。「100両と、いきなり大束なことを言うからダメなんだ。出し良いように出します。月に一度か二度、助けてくれと訪ねてくれば、1両や2両は回すことができる。細く長く、いいお得意ができたと思えばいい」。安心した多吉は「苦労人だね!」と喜び、玄若は「きょうは10両は大金。5両なら口を利く」と話しを持って行く。

で、玄若が和尚のところへ。「大変な奴に見込まれてしまいました。100両ビタ一文負からないと言うのですが、泣きの涙で頼み込み、50両できょうは勘弁してもらいました。身から出た錆でございます」。玄若が50両のうちの45両を貰い、5両を多吉に渡す。玄若こそが悪党なのだ。この男、出羽羽黒の人間だったが、三道楽が過ぎて、悪党になったが、口は達者だが腕はからっきしという人物で、袋叩きに遭い、江戸へ出た。行き倒れのところを、根性院の納所坊主に拾われたというわけだ。

多吉はその後、しばしば寺を無心に訪れ、玄若が仲介して和尚から10両貰い、そのうちの1両か2両を渡すということを繰り返す。天保2年師走20日。多吉が3両の無心に来たときに、玄若は部屋に招き入れ、葱と鮪の鍋で酒を酌み交わし、多吉が酔い潰れたところを、馬乗りになってシゴキで急所を刺し、殺害。

和尚に報告に行く。「金に汚いため、口論となり、つい…」。亡骸を二人で処分しなくてはならない。寺に埋めると足がつく。不忍池に投げようということになり、物置から俵を出し、荒縄で縛って、天秤棒で担ぎ、先棒を玄若、後棒を和尚で湯島の天神下を通り、池之端仲町通りに差し掛かる。九つの鐘。と、ジャンジャンと半鐘が鳴る。吉原で火事のようだ。人が沢山出てくる。死骸はそこに置いたまま、二人は寺に逃げた。

翌朝。竹の棒と俵がそのままになって、死骸が道端に転がっているのが発見される。取り調べると、死骸はゴロツキの多吉と判明。竹が孟宗竹だったのが手掛かりとなり、根性院に調べが及び、寺社奉行によって、和尚と玄若はお縄になる。和尚は高齢であったため、牢のなかで死去。玄若は和尚に罪を押し付け、知らぬ存ぜぬを貫いたため、死罪にはならず、三宅島に島流しに。これが、あのときに吉原で火事を起こした大坂屋花鳥ことお虎と出会うきっかけになろうとは。

「大坂屋花鳥」はたまに演じられるが、それ以外の「嶋鵆沖白浪」の抜き読みも大変に面白いのではないか。全12話にまとめた三三師匠のことだから、きっと何かの機会に演ってくれることを願ってやまない。