【渋谷らくご 10月公演】秋深し、隣もシブラク聴く人ぞ(下)

配信で「渋谷らくご 10月公演」を観ました。(2020・10・09~13)

10月11日14時 三遊亭遊子「自滅の刃」柳家小八「大工調べ」橘家圓太郎「短命」春風亭昇々「妄想カントリー」

遊子さん、初登場。なのに、つまらないマクラが延々と続き、ジ・エンド。驚愕。小八師匠、気分を盛り返す江戸っ子の噺。棟梁がぶちキレてからの啖呵の気持ち良さ。油っ紙に火が付いたみたいと大家が言っていたが、まさしく。大家も鉢の頭もあるか。なんにゃもんにゃ!

圓太郎師匠、貫禄。悔やみは「かっぽれの文句でも言えばいい」(笑)。沖の暗いのに白帆が見える、あれは紀ノ國みかん船、アーコリャコリャ!ご飯茶碗をお女様が渡す仕草が秀逸。「アーン、噛み噛みちゅるのよ」「よく噛み噛みしたら甘みがでて、おいちい!」。昇々さん、中学2年生田吾作の青春。青い春と書いて、アオハルと読むのが流行りらしい。ブレーキ握りしめて、ゆくっりゆっくり下っていく~。

10月11日17時 橘家文太「お化け長屋」三遊亭兼好「磯の鮑」柳家勧之助「竹の水仙」玉川太福「祐子がくる~太福マガジン~」

文太さん、追い返し作戦実行まで通しでたっぷり!「手短にな!と言っただろう!」。話をすれば長くなりますが、今を去ること3年ばかり前・・・「3年前!でいいだろ!」。「おっぱい?直に?」と興奮するのも面白い。で、「3年前にいい女が泥棒に殺された、これでいいだろ!やれ!」。「その喋り方やめろ!」「おかしいな、ガラッと開けたら血がベッタリ」「越してきて三日目、雨!」。おどおどろしく怪談噺をしようとする狸杢の目論見を外す職人の勝利と思ったが…。

兼好師匠、文太さんに「お化け長屋」を教えたのは私と。自分が演っているみたいで、受けていると嬉しいけど、悔しいとも。吉原に行くべきか長屋のかみさん連中に相談する与太郎さんが愉快。源兵衛にからかわれるんだけど、そこに悪意はなく、嫌な気持ちにならない。そこを隠居も心得ていて、遊び慣れている風を装う術を教えるのだが…。粋のつもりが、与太郎がやると野暮になるのが味噌ですねえ。

勧之助師匠、名人譚。2分と2万両の間を往復する、細川越中守の家来の綿貫権十郎の困惑。モノの価値って?値段はあってないようなものなのか?首を撥ねられ、その首に竹の水仙を挿すぞ!と言われ、慌てふためく綿貫の前に「完売御礼」の札が!(笑)。

太福さん、この一カ月の身辺雑記。コロナ禍で開幕した大学ラグビー。名古屋の某サウナが改装に。曲師・玉川祐子、98歳の誕生日。そして、20年木馬亭に通い詰めた常連の浪曲ファンKさんの三回忌に想いを馳せる。太福さんのお人柄が現れる。

10月12日18時 柳亭市童「黄金の大黒」立川笑二「居残り佐平次」

市童さん、長屋連中の賑やかさ。六ちゃんの「玉乗りの口上」が可笑しい。トザイ、トーザイ。鯛の塩焼きをめぐって、セリがはじまるところも。笑二さん、アレンジメントが素晴らしい。どこまで悪党なんだ、という佐平次。店の若い衆や花魁の心を取り込んで、店を乗っ取ってしまうとは。

10月12日20時 立川寸志「幽女買い」入船亭扇里「秋刀魚火事」「開帳の雪隠」柳亭小痴楽「のめる」蜃気楼龍玉「夢金」

寸志さん、あの世にも粋な年増がいるかしら。死後の世界を現代に人物に準えてギャグをぶちこむのは、「地獄八景」に似ている。そこは演者のセンス次第でいかようにも面白くなる噺。扇里師匠、珍品2席。しわいやを長屋連中がとっちめようと共同戦線を張るが。二席目、綺麗なトイレで安心して用を足したい気持ちは今も昔も変わらない。

小痴楽師匠、得意ネタ。詰将棋の件、ご自身があまり将棋に詳しくない様子がわかってしまう表現しかできないのが残念。龍玉師匠、ケチと欲張りの違いのマクラに得心。魚心あれば水心。阿弥陀も金で光る世の中。大雪の中、船を漕ぐ冬の寒さがよく出ている。鷺を烏と言うたが無理か、場合にゃ旦那を兄と言う。お嬢様を殺して金を折半するシリアスな相談の緊迫感と、最後に長洲に侍を残して逃げてしまう解放感の落差が良い。

10月13日18時 春風亭一花「大工調べ」田辺いちか「忠僕元助」

一花さん、啖呵頑張った。どこの馬の骨だか牛の骨だかわからない野郎がこの町に転がり込んできた。そんときのことを忘れやしめえ。洗いざらしの浴衣一枚でガタガタ震えていやがったろう。ペコペコ頭をさげてどうかよろしくお願いします。幸いこの町内の方はお慈悲深いわ。源六さん、この手紙を持ってあっちへいっておくれ、むこうへいっておくれ、むこうへは行かれません?どうしてだい?風が吹いてますから。風に向かって歩けませんって。この風吹き烏め。二文三文の銭もらいやがって、てめえなんざあ使い奴じゃねえか。

てめえの運が向いたのはここの六兵衛番太のおかげだよ。六兵衛さんのことを忘れたら罰が当たるぜ。源六さん、腹が減ったらこの芋をもっておいきよ。寒かったら、この半纏を着なよてんで、なにくれとなくよくしてくれた。その恩を仇で返しやがって。この婆は元は六兵衛さんのカカアじゃねえか。その時分にはブクブク太りやがって、色の白いなまっちろい婆だ。六兵衛がぽっくりおっちんで、この婆が寂しいばかりじゃねえや、人手が足りないのにつけ込みやがって。おかみさん、芋洗いましょ。薪、割りましょって。ずるずるべったり入りこみやがって、爪の先に火を灯すように金を貯め込みやがって。

そいつに高い利子をつけて貧乏人に貸し付けやがって。そのために何人泣かされているかしれねんだ。その恨みのこもった金でもって家主の株を買いやがって、大家でござい、町役人でござい、何抜かしやがんだ!てめえなんか大悪だ!ここの六兵衛番太はこの町内では評判の焼き芋屋だったんだ。本場の川越の芋を買ってきて、厚っぺらに切って、炊き付け惜しまないから、フカフカの美味い芋だ。方々から人は集まって黒山の人だかりだ。てめえの代になってみやがれ。場違いの芋買ってきやがって炊き付け惜しむから、ガリガリの生焼きの芋で、そいつ食って腹下して死んだ奴が何人いるか、わからねえんだ、この人殺し野郎!

いちかさん、義士伝。義士伝には真面目の美学が流れている。片岡源五衛門の下僕として、浅野家お取り潰しになっても、仕えていた元助。だが、討ち入り前夜、真実を明かせない主人に、不条理な別れを余儀なくされても、それを含みおいて主人を思う素晴らしさ。「主従は三世」とは言うが、晩年は上州に四十七士の石碑まで建て、菩提を弔ったという元助に感動。