笑福亭羽光“一心不乱” 来年5月の真打昇進に向け、新作落語のネタおろしと練り直しに気合いが入る

ミュージックテイト西新宿店で「笑福亭羽光 新作落語勉強会“一心不乱”」を観ました。(2020・10・12)

令和2年度NHK新人落語大賞の本選出場者が15日に発表され、入船亭小辰、桂二葉、春風亭ぴっかり☆、笑福亭羽光、露の紫、柳亭市弥の以上6人が11月2日にイイノホールで大賞を争う。羽光さんは来年5月に真打昇進が決まっているので、ラストチャンス。初の本選出場で大賞を狙う。

その羽光さんが5月上席の真打昇進までに、3回にわたって新作ネタおろし、および過去の作品の練り直しをおこなう、勉強会を開催。この日が第1回目だった。新作落語家にとって、「新作ネタおろし」は非常にプレッシャーのかかるもので、気合いを入れて臨むが、同様に力を入れたいのは「練り直し」だという。過去に創作した新作落語の中には古びてしまったものもあるから、それらをアップトゥデイトし、リニューアルして、寄席でもかけられるサイズとテイストに改良していく作業も大事だと考えるからだ。「寄席でかけられる」という点に照準を合わせたのは、やはり真打昇進後のことを考えての思いだろう。特に羽光さんの場合は下ネタのイメージが強いから、そこを払拭するためにも、寄席ネタのレパートリー増やそうと真剣に考えたという。

真打の披露目でトリをとる日は何をかけるか、ということにも言及していた。安定を取って、「はてなの茶碗」などの古典を演るか。思い切って「私小説落語」の中の淡い青春物語を演るか。模索しながら進むだろうという。

笑福亭羽光「ペラペラ王国」

渋谷らくごの創作らくご大賞受賞作を11分に収めるトライをした。NHK新人落語大賞本選のためのリハ―サルを兼ねていたと、後日ご本人から教えていただいた。噺の中に噺があり、その噺の中にまた噺がある・・・というマトリョーシカのような構造を楽しむ新作だが、場面転換が多いから短い時間に収めようとすると、慌ただしい印象になる危険性があるが、そこを上手に編集していた。また、ヴィジュアル映えするように、雪山に遭難した二人組の上空に救助のヘリコプターが飛んできたところでは、羽織を脱いで頭上でぐるぐる回すアクションを入れた。それと、出身校で講演をするときの仕草で、扇子をマイクにして喋る工夫を入れた。さて、本選の結果やいかに。

笑福亭羽光「作家作法」

これが新作ネタおろし。作家性の高い噺家らしい作品。噺家の笑福亭羽光が小説家に小説の基礎を教わるという設定が面白かった。小咄や「寿限無」を小説にするとどうなるのか、専門的アプローチをしているのが興味深い。

三人称神視点で描く、「鳩が何か落としていったで」「フーン」という小咄はこうなる。

大学の屋上から田中は空を見上げて、もの悲しげにつぶやいた。「鳩が何か落としていったで」。同級生の中村は空を見上げたが、すでに鳩はいない。朱色の絵の具をぶちまけたような夕焼けを見ながら、中村は考えた。「鳩が何を落としたというのか。餌か。卵か。そうだ、糞だ」。中村はにっこりと笑って言った。フーン。

また、一人称で「寿限無」を書いた一部を紹介する。

俺は古くなって建付けの悪い木戸を勢いよく開けた。「こんにちは」。(中略)真ん中の火鉢は何百年も置いてあるかのようにヒビが入っていて、所々が欠けている。(中略)まるで火鉢とセットのようにちょこんと座ったご隠居は、絣の甚兵衛に茶色の着物を着ている。70代をとっくに過ぎたように見える白髪を丁寧に撫でつけていた。ご隠居は「こいつ、今度は何馬鹿なことを訊きにきたのか」と半ば嬉しそうに顔をあげて、五木ひろしが風邪をひいたような声でつぶやいた。「こっちへお入り」。

さらに、ご隠居の内面を描く。

ご隠居は驚いたような顔で火箸をいじっている。「まさか、こんな奴に子どもができるなんて」とでも思っているかのようだ。ご隠居は火鉢の元から立ち上がり、無言でパスタを茹で始めた。俺は横で玉ねぎを刻んだ。そして、茹であがったパスタの湯を切りながら、つぶやいた。「寿、限り無しと書いて寿限無はどうじゃ」。

落語にベタな文学性を持たせることで発生する可笑しみという効果は、噺家と作家という二つの視点がないと展開できない。それをやってのけるのは、さすが羽光さんだと思ったし、実際に知的(?)な面白さのある作品になったと思った。

笑福亭羽光「あるある帝国」リニューアル版

この噺は前座時代に作ったものだそうだ。得意のSFファンタジーで、「ドラクエ」を想起させる設定のなかに、かつて人気だった「あるある芸人の哀愁」を描いている。勇者ヤマモトが、あるある将軍の対決を制し、大魔王からローラ姫を救出するという単純なストーリーのなかに、いかに旬で面白い「あるあるネタ」を盛り込んでいくか。前座~二ツ目~真打と、羽光さんが成長するとともに、噺も成長していく大切な宝物のような作品だと思った。この日、僕が気に入ったあるあるネタは、「スマホの画面がバキバキに割れていているのに、平気で使っている人を見ると哀しくなることがある」「外で道を探してグーグルマップを見ているとき、方向を変えたら矢印がグルグル回って、結局、目的地に着けないことがある」の二つかな。

「笑福亭羽光 新作落語勉強会“一心不乱”」の第2回はミュージックテイト西新宿店で、12月14日(月)19:30開演。「鶏と卵」の練り直しと、新作ネタおろしは「落語とは?」「落語家とは?」という本質に迫るものを構想中だそうだ。その意気込みに期待したい。